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星霜雪形

状態変化系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

圧縮形状選択可能スーツ実験

 人体を圧縮して平面化できるスーツを開発した伊澄は、そのスーツに日々改良を施しつつ、様々な実験を行っている。
 その実験というのは、以前に行った異物混入実験のような、平面化による影響がどうなるか、というものが基本的なのだけど、たまに全く新しい機能を追加することもある。
「……何かの実験をするっていうのは聞いてたけど、今日は随分テスターの数が多いわね」
 実験室には、実験に協力してくれるテスターの女性達が集まっていた。いつものことながら、この安全かどうかもあやふやな怪しげな実験に参加してくれる人をよくこんなに集められるものだ。
 実際、どうやって集めているのか聞いてみたい気もする。表情とか態度とか、集まったテスターたちの様子を見る限り、無理矢理やらされているような人がいないというのも、考えてみれば不思議な話だった。
 仕事として来ている人くらいはいそうだけど。
「どうしました?」
 テスターたちを見回していた私に、綾子が近付いてくる。
 綾子には聞いても仕方ない。綾子はスーツの開発者であって、経営者でも出資者でもない。スーツの開発には色々な人が関わっている。テスターを集め、管理しているのはそのうちのひとりだ。
「……なんでもないわ。それで、今日は何の実験をするの? これだけ人を集めたってことは、結構大がかりな実験みたいだけど」
「大がかりというわけではないんですが、人数は必要でして……とりあえずこれを見ていただけますか」
 そう言って伊澄が取り出したのは、一辺10センチくらいの黒いキューブだった。
 掌に載るサイズのスピーカー、のように見える。
「それは……?」
「持ってみますか? あ、見た目より重いので気をつけてください」
 そう伊澄に注意を受けながら、キューブを両手で受け取る。
「え……っ、なにこれ……?」
 伊澄の言ったとおり、そのキューブは見た目に反してずっしりとした重みを感じるものだった。同じ質量の鉄球くらいの重さがある。
 けれどあたしが驚いたのは、そのキューブの重量に対してじゃなかった。
 あたしが驚いたのは、そのキューブの触感。それはあたしも馴染みの深い――ラバーの触感だった。
 そう、平面化スーツの感触だったのだ。
「ちょっと、これ、もしかしなくても……?」
 少し戸惑いながらも聞いてみると、伊澄は何でも無いことのように頷く。
「はい。一足先に来て貰っていたテスターの一人です」
 その答えを聞いて改めてキューブを確かめてみると、平面化スーツになった時の人と同じく、人肌の温かさが感じられる。それに、ほんのかすかに震えているような感じも。
 このキューブが平面化スーツと同じ技術によって圧縮された人なのだということはもはや疑いようもない。単に平面化したのに比べると、人型の影も形もないけど、これが生きている人間であることはわかった。
 わかったけど。
「……いつから平面化スーツは立方体化スーツになったの?」
 新しい機能を付けたのだろうけど、これはもはや平面化スーツとはいえないのではないだろうか。
「細かいことは気にしないでください。……正直、私も名称を変更するかどうか迷ったのですが、とりあえずその申請は先送りかなと」
 今回はそのための実験でもありますし、と伊澄は呟く。
「なるほど……この実験でその機能を正式に追加するかどうか決めるということね」
「そうですね。この機能は有用だとは思っていますが……今回の実験の結果次第では実装を取り消す必要もありますから」
 伊澄はそう言いながら、あたしからキューブを受け取って、机の上においた。
「それでは、さっそく準備を始めていただけますか?」
「はいはい……仕方ないわね」
 テスターの人たちにも声をかけ、準備を始める。


 実験室にずらりと並んだテスターたち。
 その全員が爪先から頭まで圧縮用のラバースーツとマスクで覆われているため、なんとも奇妙な光景だった。黒いゴム人形が並べられているようにも見える。
 あたしもそのうちのひとりとして、ラバースーツは身につけていたけど、まだマスクは身に付けていない。なにやら手伝って欲しいことがあるとかで、あたしの圧縮は最後にするというのだ。
「ところで綾子は、平面化スーツの課題点について覚えていますか?」
 平面化スーツにはいくつか改善するべき点があった。
 その解決策が見つかったのだろうか。
「えーと、人が圧縮された物と、本当の物との区別が付きにくい点?」
 厚紙レベルに圧縮された状態だと、それが圧縮された人間だと知っていなければ、それがまさか人間とは思わない、というのが大きな問題とされていた。
 物に間違われて捨てられたり、雑な扱いをされては、命に関わるからだ。
「その点も大きいですね。でも、そうではなくて、もう少し実戦レベルの話です」
「実戦レベル? ……あ、もしかして」
 あたしはひとつの課題点を思い出した。
「輸送する時のあれ?」
「はい。そうです。スーツによって圧縮された状態は衣服の厚みと変わらないため、衣類と同様に折りたたみ、積み重ねて輸送することができます」
 大きな利点ではある。段ボール箱一箱分で何十人もの人が同時に運べるのだから。
 ただ、その運び方には大きな欠点があった。
「一番下に積まれる人が、相当苦しいのよね」
「はい。幸いにして、実験では発狂するレベルになった人はいませんでしたが……積み重ねれば積み重ねるほど、下になった人に負担がかかり、長時間の輸送には適さなくなります」
 それは大きな課題点だった。元々輸送の最適化・軽減を目的に造っているスーツなのに、それができなくなるんだから。対策として、特殊なハンガーで吊した状態で輸送するという方法などを考案はしたものの、それだと無駄なスペースが空いてしまう。
「それを解決するのが……この立方体化なの?」
 あたしは机の上に置かれたキューブを突っつきながら言う。
「でも立方体に変えたからって、結局下になる人に負担がかかるのは同じじゃない?」
「そこはちゃんと考えてあります。……皆さん! 圧縮を開始します!」
 伊澄がテスターたちに呼びかけて、その手元にあるリモコンで圧縮を開始する。
 ずらりと並んでいたラバースーツに包まれたテスターたちが、一斉に圧縮され始める。
「これだけ揃うと、圧巻よねぇ……」
 いままでの平面化スーツであれば身体の厚みが無くなっていくだけなんだけど、この圧縮スーツはその身体の輪郭をも歪め、四角く圧縮していく。
 気づけば、黒いゴム人形たちが立っていた場所に、ごろごろと圧縮された人間が転がっていた。
「拾い集めるのを手伝ってください」
「はいはい……ん? なに、これ?」
 あたしは拾い上げたテスターのひとりを見て驚いた。
 圧縮されたテスターは、立方体の形ではなく、コの字型にされていたからだ。
 みれば、圧縮された者たちはそれぞれふたつとない形に圧縮されている。L字型やT字型はもちろん、見ればEの字型もあればYの字型まである。
「立方体の形に圧縮するんじゃなかったの?」
「形状はある程度自由に選択が可能です」
「どうしてわざわざ色んな形に……?」
「とりあえず、皆さんを拾って机の上においてください」
 あたしは言われるまま、様々な形状に圧縮されてしまったテスターたちを拾い上げる。
 机の上がずいぶん賑やかになった。
 そこに、伊澄が普通の段ボール箱……いや、かなりの重量に耐えられる特別仕様の箱を持ってくる。
「この中に圧縮した人たちを詰めていきます。ただし、普通に詰めるのではありません。たとえばこのように……」
 伊澄はまずTの字型に圧縮された人を、逆さまに向けて箱の隅におく。次にL字型に圧縮された人を、隙間を埋めるように置いた。まるでテトリスで棒を積む時のように、隙間が生じないように、かつ、形状を組みあわせていく。
 実際に見せてもらったら、理解はしやすかった。
「……なるほど! そうやって複雑に組みあわせることで――下の人の負担を軽減するってわけね!」
「その通りです。概算ではありますが……平面で積む、十分の一ほどに最下段の負担が軽減します」
「なるほど……確かにこれなら輸送時の負担はだいぶ軽減されそうね……」
 よく考えついたものだと感心する。
 けれど、気になることもあった。
「ところで、負担軽減はいいとして……これ、完全に物扱いよね?」
 パズルか何かをしているような気分になるくらいだ。
 少なくとも人間を輸送している感覚は余計に薄れた気がする。
「人間と物との区別ができないって課題については?」
「それは、まあ、引き続きの課題ですね」
 目を逸らしながら伊澄はいう。
 まあ、課題のひとつが解決するのだから、一歩前進とするべきだろう。
「はいはい……それじゃあまあ、今回はこの実験をしっかりしましょうか」
 あたしは伊澄と相談しながら、テスターの人たちを箱に詰めていく。
 本当にパズルか何かをやっている感覚だった。たまにキューブが震えるので、それが生きた人間が圧縮された物だと思い出すくらいだった。
(実用化されるときには本当に気をつけないとね……)
 やがて一人分の空間を残して、すべてのテスター達を詰め終える。
「うーん。やっぱりパズルよねどう考えても」
「それでは、最後の綾子も詰めますので、全頭マスクを被ってください」
「はいはい」
 あたしは平面化ならずいぶん慣れてきたけど、立体で圧縮されるのは初めてだ。
 どんな感覚なんだろうかと、不安半分期待半分で頭部圧縮用のマスクを被る。マスクを被ると目も耳も口も塞がってしまうので、暗闇に取り残されたような気分になる。
 圧縮には慣れっこで落ち着いていたはずの心臓が、激しく高鳴り始める。
「それでは、いきますよ」
 かすかに聞こえた綾子の合図と共に、あたしの身体は急速に圧縮され始めた。
(んぎぎぎぎぎぎ……!)
 身体の輪郭が押しつぶされ、ねじ曲げられていく感覚。あたしの手足はすぐに機能を失い、粘土細工が押しつぶされるように、その形が強制的に変えられていく。
 その圧縮される感覚は平面化するときと同じようでいて、全く違う感覚だった。平面化は厚みを失っていく感覚が強かったのに対し、今回の圧縮は例えるなら、『無理矢理別の形の容れ物に押し込められていく』感覚だった。
 腰の辺り――感覚としてであって、実際はたぶん全然違うところなんだろうけど――が折れ曲がり、さらに首の辺りが折れ曲がる。ブリッチしているときのような感覚がずっと続いている。
 あたしは逆Uの字型に固められているようだった。
 そんなあたしの身体に、熱いものが触れてくる。熱く感じたのは感覚が鋭敏になっているからで、それ自体は平面化の時もそうだった。無事特定の形に圧縮されたあたしを、伊澄が手に取ったのだと予想は付いた。
 伊澄は手に取ったあたしの身体の輪郭を確かめるように、両手でなで回してくる。
(ちょ……伊澄……っ、それは、反則……っ! ひやぁっ!)
 敏感になった肌に触れられる。大きな手で全身をなで回されているような、そんな奇妙な感覚になっていた。
 あたしが震えてその感覚に耐えているのをあざ笑うように、伊澄は執拗にあたしの身体をなで回していた。鋭敏になった皮膚感覚はその接触をまるで愛撫のように受け取ってしまう。人の形を残して平面化されたときは、触れられた位置も相応に準じて感じていたけど、立体的に固められた今は、どこを触られても性感帯を直接触られているような感覚になる。
 知らなかったこととはいえ、さっきまであたしもテスターたちを箱に詰める時に、ああでもないこうでもないと弄りまくっていたから、これはその報いなのかも知れない。
 やがて十分あたしを堪能したのか、伊澄はあたしの身体を、箱の中の最後に残った空間にはめ込んでしまう。
 まるで最初からそこにあるべきだったというように、あたしの身体は箱の中の圧縮空間にぴったりと嵌まってしまうのだった。
(これは……すごい……負担が、全然違う……!)
 周りが震えている感覚は、平面に積まれている時の感覚とほとんど変わらない。
 けれど、その感覚は平面よりも遥かに優しく、分散されているのがはっきりとわかった。
 他の人と絡み合っているような感覚は強かったけど、ぎゅっと圧迫される感覚はあまりない。いうなれば組み体操で沢山の人と綺麗に組み合わさって、体勢が安定している時の感覚に近かった。
 ぎゅうぎゅうに圧縮されているというのに、なんだかそれが心地よくなってしまうくらいだった。
(……うん、これなら、輸送に適してるかも……)
 あたしたちの詰められた箱が移動させられる。
 台車に積まれたのか、小刻みな震動が全身に与えられるようになったけど、その震動も上手く全身で受け止められているのか、揺りかごに乗せられているように受け止めれていた。
(あー……これはいいわ……色んな位置にいる、それぞれのテスターの人たちの意見も聞かなきゃだけど……これはとてもいい詰め方ね……)
 他の人たちと組み合わさった全身で、心地よい震動を受け止めながら、あたしは意識を薄れさせていった。
 心地よい眠りにつくときのように、自然と意識が薄れていく。

 圧縮スーツが実用化に近付いている実感を得ながら、あたしは緩やかに眠りについたのだった。


~圧縮形状選択可能スーツ実験 おわり~
 
 

石化症 おわり

 視線が刺さる。
 昨日よりも早い時間からたくさんの人が公園に来ているみたいだった。噂が人を呼んだのか、それとも別の理由があるのかはわからないけど、明らかに視線の数が昨日より多い。
(んぁ……っ、こんなに……視線が……!)
 全身を無数の手で弄くられているみたいだった。
 昨日は正面からの視線が多かったけど、人の数が増えたせいか、背中側から向けられる視線もかなり増えていた。
 背中やお尻に視線が向けられているのがわかる。
(そ、そんなところまで……!)
 ほとんどの視線はお尻の輪郭をなぞっているのだけど、ひとつだけ視線が割れ目の間、肛門のあたりに向けられているのがわかった。普通の石像ならそこまで厳密には作っていないことも多いだろうけど、人間がそのまま石になった私には当然肛門がある。
(み、みないでぇ!)
 珍しいから見ているのだろうとは思うけど、そこに注目されるのはさすがに恥ずかしい。お尻の穴を隠すようなポーズにすれば良かったと少し後悔した。肛門をなぞられているような、なんとも奇妙でくすぐったい感覚が襲っている。幸い、その人はそんなに長い時間ではなく、すぐに去って行ってしまった。
 そんなハプニングもありつつ、時間はゆっくりと過ぎていく。
 公園には公園のどこにいても見える位置に時計が置いてあって、私からもそれは見えていた。ちょっと角度がついていて見にくいけど、大体の時刻はわかる。
(そろそろお昼だ……ほんとに全然お腹空かないなぁ……)
 もう石化して丸一日はとっくに過ぎていた。食欲が湧かなかったから石化する前からご飯は食べて無くて、もう二日くらいは何も食べてないことになる。
(そういえば、視線しか治る手段がないってことは……視線を向けられない環境では、永遠に石化したままになるのかな……?)
 精神の動きも鈍化しているから、治らない恐怖や絶望なんかはあまりないだろうけど、実際にそんな風にされるところを想像すると……ちょっと怖い。背筋がぞっとした。
 怖いことを考えるのは止めておこう。
(ん……直射日光が……熱くは無いけど……)
 じりじりと照りつける日差しが私の身体を刺している。
 お昼になって、公園を行き交う人の数は多くなっていた。どうやら、近くの会社の人などがお昼休みになって外に出てきたみたいだった。
 足取りは忙しなかったけど、私に視線を向ける人は結構いた。
 そういえば、視線を向けられ続けていたら、だんだん向けられる視線にも種類があることがわかってきた。
 まず、好奇心に満ちた視線。これが一番多かった。忙しなく顔や胸、腰のあたりを移動していく。手で例えると、軽いタッチで色々なところを触れてくる感じ。
 次に、嫌悪感に満ちた視線。大抵は一瞬だけなんだけど、すごく鋭い。顔を見てくることが多いかな。平手で叩かれるみたいな刺激が伴う。
 そして、粘着質な視線。これは全体からすると少ない方なんだけど、こっちを見ている時間は特に長い。顔よりも胸とかあそことかばっかり見てくる。じっくりとなで回すような感じで、時にはそれよりもっと執拗に、舐められてるのかと錯覚するくらいねちっとした視線もあった。
 身体が動かせず退屈な中で与えられる刺激としてはとてもありがたいのだけど、普通の女子としては危機感を覚えるレベルの視線だった。
 視線にも色々あるんだなぁ、と実感すると共に、そんな視線を向けられる存在になってしまっているという事実を改めて突き付けられた。
(ん……平気かなって思ってたけど……やっぱり恥ずかしいよぉ……)
 腕が動かせたなら、身体を隠していただろう。そうやって、動くことを考えていた時点で、だいぶ私の治療は進んでいた。そのことに私は気づいていなかった。
 昼も過ぎた頃、突然、石の軋む音が響く。
(わゃっ!? な、なに、いまの?)
 ピシ、ピシリ、と耳の中で音が反響している。嫌な想像が頭に浮かぶ。
(もしかして、身体が壊れてるんじゃ……!?)
 どくん、と心音が轟いた。いままで消えていたはずの心音は大きく聞こえ、まるでドラムがビートを刻んでいるかのように、私の全身を震わせる。
(心臓……動いてる……? まさか、もう石化が解けるの!?)
 私は驚き、狼狽していた。人によっては早く解けるとは聞いていたけど、まさかこんなに早いなんて。
 周りにいる人たちが、ざわめくのが聞こえてきた。
「おい、なんかひび割れてね?」
「ほんとだ……壊れちまうんじゃ」
「おい、見ろよ! 肌が見えてる!」
「ほんとに人間だったんだ……」
 ざわめきは大きくなって、それに誘われて人が集まり始めていた。その分、視線が集中し、いまだ敏感な身体に突き刺さってくる。
 身体の表面から、殻を破るように石が剥がれ落ちていくのがわかった。
(待って待って! いま、石が剥がれたら……皆に見られちゃう……!)
 隠さなくちゃ。そう思って身体を動かそうとしても、身体は上手く動いてくれない。石から元に戻っても、石になってて全然動けなかったのは変わらない。身体が硬直してしまっていた。
 乳房を覆っていた石の破片が壊れて、素のままの乳房が衆目に晒される。
(いやーーーーっ!!)
 石じゃない普通の身体が、見られている。カメラを向けている人もいる。
 顔の部分まで剥がれたら、個人の特定までされてしまうかもしれない。
 絶体絶命のその時。
 突如、私の立つ土台の回りから、大量の水が立ち上った。それは水のカーテンとなって私の姿を隠してくれた。
「石化症の治療にご協力ありがとうございます。無事治療は成功しました」
 石渡さんの声が、公園に設置されたスピーカーから響く。作業員さんたちが駆けつけてくれて、元のように天幕を組み立ててくれた。
 無数の視線が遮られ、私がほっと一息吐くと、顔を覆っていた石が落下して砕けた。
 作業員さんたちは極力こっちを見ないようにしてくれていたけど、視線がたまに向けられているのに、私は気づいていた。ものすごく恥ずかしい。
 まだ動けない私のところに石渡さんが来て、バスタオルを巻いて身体を隠してくれる。
 石渡さん以外にも女性の人がいた。
「ごめんなさい。こんなに早く解けるとは想定外でした」
 石渡さんがそういって謝ってくれる。本当は石がひび割れた段階で天幕を張り直す予定だったらしい。予想以上のスピードに対処が追いつかなかったそうだ。噴水のカーテンは万が一の緊急用の設備だったらしいけど、それがあって本当に良かった。
「台座から降ろしますね。ちょっと怖いかもしれませんけど、無理に暴れずに安心してください」
 そういう石渡さんの号令の元、女の人たちに抱えられて台座から地面に降ろされる。先んじて地面にマットのような物が敷かれていた。その上に寝かせてもらう。
「毎度のことながら、この効果だけは羨ましいわね……」
「さらし者になるのは嫌だけどね……」
 ぼそぼそと小声で囁いている。何の話だろう。
 あとから私も自分で見て気づいたのだけど、石化から元に戻った私の肌はものすごく綺麗な肌に変わっていた。無駄毛やシミも一切無い、瑞々しく真白い肌。どんなお肌のケアをしてもこうはならない、というくらいに磨かれていた。
 その肌を見て、女の人たちは羨ましがっていたというわけだ。
「ほら、無駄口を叩かない! ごめんなさいね。いまから全身をマッサージして、動けるようにします。……ちょっと敏感になってるから苦しいかもだけど、堪えてくださいね」
 石渡さんがそう言って合図すると、女の人たちが一斉に私の身体を揉んで来る。
「ひ、あ……あ……」
 声が上手く出なくて良かった。もし普通に声を出せていたら、大音声で喘ぎ声をあげてしまっていたところだった。
 指先、足先、肘、膝、肩、腰、足の付け根。石渡さんたちの手が私の身体を解していく。
 文字通り石のように固まっていた私の身体は、石渡さんたちのおかげで徐々に軟らかく解されていった。
 石化前に取っていたポーズからようやく手足を動かせるようになり、私は普通の体勢で寝れるようになっていた。それでも石渡さんたちのマッサージは終わらない。
「ん……ぅ、んあ……あっ、あぁっ……」
 びりびりとした感覚が体中から発生し、私の頭を痺れさせる。
「……そろそろ大丈夫かしら。自力で身体を動かせますか? 試してみてください」
 囁かれて、私は自分の身体を動かしてみた。ずいぶん緩慢な動きだったけど、指を曲げたり腕を持ち上げたり、動かせるようになっていた。
「うん、大丈夫そうですね。腕が動かせるのなら、自分でもマッサージしてもらえますか? 女同士とはいえ、胸とかお尻とかはあまり触られたくないでしょう?」
 私はその石渡さんの配慮に感謝しつつ、まずは胸を触ってみる。
(あれ……なにこれ……固い……?)
 軟らかいはずのおっぱいは、妙に固い弾力の感触を返してきた。それを解すように両手で揉む。あとから考えると酷く扇情的な動きだったけど、その時の私はいまいち思考が定まっておらず、自然とやらかしていた。
 固い胸を解していると、すごく気持ちよかったのが良くない。まるで止まっていた血流が流れ出したように、じんわりと温かさが広がり、満たされていく。それは同時に快感も生み出していたから、ほとんど自慰と変わらなかった。
 マッサージしてくれてた女の人たちが顔を赤くしていたのも当たり前だった。
 石渡さんが気を利かして、私以外の人を天幕の外に出してくれたからまだ良かったけど。あとから思い返して、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
 残った石渡さんが引き続きマッサージをしながら、今後のことについて説明してくれた。
「一日は経過を見ながら入院してもらいます。それで問題がなければ、そのまま退院ということになりますが、その後についてです。とても大事なことなのでよく聞いてください」
「は、い……」
「まず、石化症は再発する可能性があります。再発を防ぐには定期的に運動をするようにしてください」
 じっとしていたとしても再発しない場合もあるらしいけど、できれば動いた方がいいらしい。
「最悪再発した場合でも心配はいりません。今回と同じ治療をすれば大丈夫です」
 その言葉を聞いて少し安心した。
「あの……再発ってどれくらいで、するんですか?」
「正直、わからないというのが実情ですね。人によっては何年も経ってから再発する場合もありますし……早い話だと、三週間くらいで再発した例もあります。まあ、それはちょっと特殊な例ですが」
「特殊……?」
「実験での話なんです。……もちろん同意の上での実験ですよ? ほとんど身体を動かさないようにして、あえて石化症を再発させたんです。当時はまだ石化症のデータがほとんどなくて、危険ではあったんですけどね」
「……そう、ですか」
 私は石渡さんの話をひっそりと心に刻んだ。
「とにかく、お疲れ様でした。服をおいていきますので、動けるようになったらそれを来て出てきてください」
 そういって石渡さんも天幕の中から出ていった。
 私は自分の身体をマッサージして解しつつ、ゆっくりと身体を起こす。さっきまで自分が乗っていた台座を見上げた。
(……気持ちよかったなぁ)
 最後は恥ずかしかったし、全く動けなかったのは退屈だったけど。
 全身に視線を浴びるあの感触はちょっと他では味わえない感覚だった。全身が石になってしまう過程は怖かったけど、終わってみればあの身体を徐々に浸食されていくような感覚も他では味わえない貴重な体験だった。
 たぶん、記録を取っているはずだから、あとで石渡さんに外から私がどう見えていたのか、写真か動画を見せてもらおう。
 そんなことを考えつつ、私は身体を解して、日常へと戻っていった。

 その後、私は大事な試験を無事盤石な状態で受けることができた。結果も上々。
 石像になる、なんてとんでもない経験をしてしまったけど、そのおかげでかえって度胸がついたような気がする。
 石像になって晒されたのに比べれば、多少人に注目されるくらいなんてことはないんだから。
 周りには自信がついたように見られているらしくて、褒められた。

 そんな私は最近――読書に嵌まっていた。


~石化症 おわり~
[ 2018/07/26 21:38 ] 小説・短編 石化症 | TB(-) | CM(0)

石化症 5

 それは、石化が進行することによって、恐怖心が硬直しつつあるだけだったのかもしれない。
 どちらにしても、私は安らかな気持ちでそれを受け入れることが出来た。
 身体の中心まで固くなってく感覚。さっきまで激しく高鳴っていた心音がどんどん小さくなっていくのがわかる。私の身体が、石になってしまう。
 とくん、とくん、とくん――。
 もう私の身体の表面はすべて石になってしまった。
 とくん、とく、ん、と、くん……。
 最後まで聞こえていた心音が、止まる。
 ――――。
 それはとても恐ろしいことのはずなのに、私はそれを自然に受け入れていた。自分の身体から何の音もしない。ただ、静寂が身体に満ちている。
 動かせない、とは少し違って、動かそうとも思わなかった。
 ただ、意識はやけにしっかりしていて、石になってしまった自分をなんとなく感じていた。石になった私の視界は、はっきりしておらず、とても分厚い硝子越しに見ているような感覚だった。
 そんな私の視界に、輪郭のぼやけた石渡さんが入り込んでくる。
 手が、優しく私の頬に添えられた。
(はぅ……っ、ひゃっ)
 優しく頬を撫でられた。ただそれだけのはずなのに、まるで夏の暑い盛りに冷たいペットボトルを押しつけられたような、そんな鋭くも気持ちいい感触が走る。
「ふふ……聞こえてますか? 説明した通り、石化した身体はとても敏感です。ですが、治療中に触れる人はいないから安心してくださいね」
 壁の向こうで話しているような石渡さんの声が聞こえた。
 そういえば、石化中は感覚がかなり鋭敏になるとか、話があったような気がする。
 それを自覚してもなお、鋭敏すぎる感覚には驚いてしまうけど……。
「先に話していた通り、落下しないために特別な樹脂で足先を固めますね。石化が解ける際に樹脂も剥がれてしまいますから、解けた直後は落下しないように気をつけてください。……動けないと思うけど」
 最後にぼそりと呟いた石渡さんの言葉が、少し不思議だった。石化が解けたのに、動けないというのはどういうことなんだろう。
 疑問に思っても、問いかけることはできない。
 石渡さんが私の視界から消え、なにやら視界の外で作業をしているようだった。その姿は見えないけど、天幕の中にいることはなんとなくわかる。それは、空気の流れが感じられたからだった。石渡さんが動き回ると、それに伴って空気が動いている。
(これも鋭くなった感覚のおかげ、なのかな……?)
 不意に、足先に冷たい感触が走って、内心跳び上がるほど驚いた。例の樹脂をかけられているのだと、なんとなく理解する。ちょっと間があって、ふくらはぎあたりを掴まれた。
(んっ……!)
 暖かな、いや、熱いくらいの手の熱に驚く。たぶんあっちが熱いんじゃなくて、こっちの感覚の問題なんだろうけど。
 手に私の身体を揺すろうと力が込められたけど、私の身体はぴくりとも動かなかった。樹脂が固まってくれたみたい。
「うん、大丈夫そうですね。それじゃあ、数日の我慢ですので、頑張ってください」
 石渡さんがそう言って、天幕から去って行く。
 それと同時に、作業員らしき人たちが入って来て、天幕の撤去を始めた。
 作業員の中には男の人もいて、石化しているとはいえ、全裸を見せてしまっていた。けど、思ったより羞恥心は湧かなかった。
 それよりも、気になることがあったから。
(ん……ッ!? なに、これ……)
 まるで直射日光を浴びたような、鋭い感覚が肌に生じた。その感覚は顔と胸、それからあそこあたりに特に生じている気がする。
 まだ天幕は大部分が残っていて、直射日光を感じたわけじゃない。
 私はどうして急にそれを感じたのか、不思議に思っていると、どうやら私が感じたそれは作業員さんたちの視線のようだった。
 作業員さんたちはてきぱきと仕事をこなしているけど、時折こっちをこっそり窺っている人がいる。ちらり、と視線を向けて来ていた。それと同時に、針で刺されるみたいな、強烈な感触が肌に発生していた。
(これが……お医者さんが言っていた、視線の効果なんだ……!)
 石化症に対する唯一の治療法。見られることによる刺激。
 私たち女の子は、自分に向けられる視線には元々敏感な方だ。例えば道ですれ違う男の人が、胸元とかふくらはぎのあたりに視線を向けてきたらすぐわかる。
 いまの私はその感覚がより強く感じられるようになっていた。視線が質量を持ってぶつけられている、というとちょっと大げさだけど、大まかにはそんな感じ。
 じろじろと見ているわけではない、盗み見みたいな視線でこれなら、じっくりと注視されたならどうなってしまうのか。
 私は不安に思いつつ、天幕が片付けられていくのを感じていることしかできなかった。
 程なくして天幕が片付けられると、私はまず視線以前の感覚に耐えなければならなくなった。
 天幕がなくなったことで、そよぐ風や注がれる日光が早速私の身体に襲いかかってくる。
 風はたぶんそよ風程度のものなのだろうけど、いまの私には風が吹く度にまるで大きな掌で全身を撫でられているような、そんな感覚を与えられていた。
 全裸の身体を撫でられる、なんていう経験はもちろんなく、巨人の手によって弄ばれているような気分だった。
 日光の感覚も不思議なもので、普段感じているものとは全然違った。夏の強い日差しとはまた違う。感覚的には似ているのだけど、夏の強い日差しが刺すようなものなら、いま私が感じている日光の感覚は、染みこんでくる感じ。
 日光によって与えられる熱が、身体の芯までじんわりと届いてくる感じがした。それはやっぱり石の身体だからなのだと思う。体表面からじわじわと染みこんできて、体内に熱が籠もっていく感覚がする。
 視界がぼやけているからわからなかったけど、天幕があった場所から考えると、公園を一望できる場所にいまの私は立っているはずだった。
 いくら石化しているとはいえ、こんな人目につくところで、裸になっているのだけど、なんだか遠い世界で起きている出来事みたいだ。
 そんなことを考えていると、不意に周囲に冷たい感覚が生じ始める。
(ひゃっ……な、なに……? あ、水、かな……)
 そういえば石渡さんが台座の周りは水で満たすとか言っていたような。落ちても大丈夫なように、という話だったけど、水が張っていることで人避けにもなりそう。
 いくら「触れないように」という立て看板を作ったとしても、そういうのを無視して触ってくる人がいるかもしれないし。物理的に触れないようになっているというのはとてもありがたい。
 そんなことを考えていると、冷たい感触が少し落ち着いた。
 水を張り終わったんだろうか。
 作業員の人たちも私の傍から離れていって、しばらく静かな時が流れる。
(このまましばらく立ち続けないといけないのか……暇だなぁ)
 暢気にそう思っていた私の考えは甘すぎた。


 それは、突然始まった。
 ピリッとした全身を刺す鋭い感覚。
(はうっ! な、なになに?)
 その私の疑問はすぐに解消された。
 私の立つ台座の周り、そこにたくさんの人が歩いてきたからだ。
「おー、これだこれ。石化症の女の子が出たってほんとだったんだな」
「その話、まじなんかね? どーみても石像にしか見えねえけど……」
「石化症はマジだぜ。うちの親戚も昔なったって聞いたことある」
「なんか看板あるな……なになに……? 『お手を触れないようにお願いします。また、治療のためなるべく全身を見るようにしてください』……だって」
「言われなくてもみるけどな……主におっぱいを!」
「お前サイテーだな……聞かれてたらどうすんだ」
「さすがに意識はないんじゃね?」
 最初に来たのは、大学生くらいの男性グループだった。
 彼らの視線が全身に刺さるのを感じる。話に出て、私も意識してしまったからかもしれないけど、妙に胸に対する視線が強い気がする。
(んん……っ、ふぁ……っ)
 触れられていないのに、視線が移動する感覚がはっきりわかってしまって、それがまるで実際に指先でなぞられているような錯覚を生み出していた。
 胸の先端を弄られているような、奇妙な感覚。
 注目されているところが触られているみたいだった。
 最初の大学生のグループはすぐ去っていった。
 けれど、この公園は元々利用者が多いのか、それとも私が新しく設置されたからか、ひっきりなしに人が訪れる。その度に私は視線を全身に感じて、まるでたくさんの人に弄ばれているかのようだった。中には数十分にわたってじっくりと私を見ていく人もいた。
 そうやって人の視線に晒され続けた初日。
 空が暗くなって、夜になるとようやく人もまばらになり、私は一息つくことが出来た。
(さすがに夜の間はあんまり人も来ないよね……)
 暗いのは怖い。石になっていると眠気とかは来ないみたいで、夜中ずっと起きていないといけないのかと思うと、少し憂鬱だった。
 いよいよ暗くなろうとした時、私の周りの電灯が点き、私の身体を照らし始める。
(うわ……っ、く、暗くなくなったのはいいけど……)
 暗闇の中、自分のいる場所だけが照らされているのを想像すると、かなり恥ずかしい。周りが暗いだけに目立つし。
 時々通りかかる人が私を注視する度合いも高かった。昼の間は多すぎて余裕がなかったけど、ひとつの視線だけになると、それがどう動いてどこを見ているのかもはっきりわかってしまう。
(あ……胸、見られてる……次は、顔、見てる……)
 相手がどんな人かは、今の私の視界ではわからない。
 けれど、人によって注目する場所が結構ちがうんだというのはわかった。
(ん……ふくらはぎ、すごい見てる……さっきから足ばっかり……)
 大体の人は顔か胸か……あそこ、なんだけど、たまに足を注視してたり、うなじあたりを見てたり、鎖骨の辺りを見てたりと、見る場所に特徴があった。
 人に見られる、なんて普段の私なら恥ずかしくて嫌なことなのだけど、石化した私は、鋭敏になった感覚と、はっきりしない視界もあって、そうやって『見られる』ことがなんだか楽しくなっていた。
(あ……っ、気持ち、いい……!)
 乳首に視線が向けられている。乳首が弄くられているような、そんな感覚が生じる。見られる感覚が、徐々に快感に変わっていた。
 そして一度それが快感になりうるのだと認識してしまうと、途端にどこに向けられる視線も快感に感じるようになってしまった。
(はぅ……あぁ……いっちゃった……もっと見て欲しかったなぁ……)
 こんな調子で、明日の昼の人波には耐えられるんだろうか。
 私は少し不安になっていた。けれど、心のどこかで、それが少し楽しみにも、なっていた。

つづく
[ 2018/07/25 20:18 ] 小説・短編 石化症 | TB(-) | CM(0)

石化症 4

 身体の先から石化範囲が徐々に広がってくるのがわかる。
 身体の中を固い水が満たしていくような、そんなイメージ。足の先が冷たくなって、それが徐々に足の甲に広がってくる。足の裏、かかと、くるぶし、足首……徐々に私の中心部に向かって、それが満ちていく。
 水が満ちきった場所は、もうどんなにがんばっても動かせない。なくなってしまったわけではない証拠に、かすかに感触はする。足の裏からは土台に触れている感触が。体表面からは空気が動くかすかな感触もしていた。
(……あれ? 風、吹いてないよね……?)
 天幕に覆われているとはいえ、野外なのだから空気が動くのは自然なことだと思う。
 けれど、肌に感じられるほどの風が吹いている様子はなかった。いまはほとんど動けないからはっきりと確認は出来ないけど、少なくとも天幕が揺らぐほどの風は吹いていない。
 実はわずかな空気の動きすらわかるようになっているのは、石化したことによって身体の感覚が研ぎ澄まされているからだったのだけど、その時の私はそのことをわかっていなかった。
 その時はただ、石化していく自分の身体の感覚に夢中だった。
 手の指先、手の甲、手首、足とは別にそっちも石化が進んでいる。石化症は四肢の先端から固まっていくとは話に聞いていたから、同時に石化が進んでいくのにも耐えられた。
(ああ……もう肘と膝あたりまで……固まっちゃった……)
 もうどんなに頑張っても動けない。そのことを改めて実感すると共に、私は急に恐怖心が沸き上がってくるのを感じる。ゾクゾクと背筋が震え、目に涙が浮かびそうになった。
(大丈夫……だいじょうぶ……助かるんだから……しばらく耐えれば……)
 でも、本当に戻れなくなってしまったら。
 石像のまま、壊れるまで立ち続けなければならないのだろうか。
 人間だったことも忘れ去られて、その辺に無残にうち捨てられて。
(そんなの、いや……っ! いやだよぅ……!)
 身体を動かさなきゃ。このまま石になるのは嫌だ。
 そう思った私は、力を込めて身体を動かそうとした。
 けれど、わずかに身体が軋んだだけで、私の身体は動かなかった。
 冷たい絶望が私の心に溢れ、泣き叫びたい衝動に駆られて、それでも私の身体は一ミリも動いてくれなかった。
 完全にパニックに陥っていた時。
 ふと、暖かな感触が頭に触れた。優しい温かさ。
 パニックで真っ白になっていた視界が晴れて、目の前の光景を認識する。石渡さんが、優しい笑顔で私の頭を撫でてくれていた。
「大丈夫。ちゃんと治るから。私を信じて」
 石渡さんの声が優しく耳朶を打つ。それはとても暖かい感触になって、手足から広がっていた冷たさすら暖めてくれた。
 絶望に泣き叫んでいた心が落ち着く。
 かつて石渡さんも私と同じように石化症にかかって石化していたらしいから、パニックになるタイミングがわかっていたんだと思う。
 石化範囲は肘と膝を超え、肩と足の付け根当たりにまで及びつつあったけど、もう私に恐怖心は湧いてこなかった。

つづく
[ 2018/07/22 22:20 ] 小説・短編 石化症 | TB(-) | CM(0)

石化症 3

 昨日くらいから、急に身体の動きが鈍くなっているのを感じていた。
 いまでは普通に歩くのも結構辛いくらいだ。普段なら意識しなくても動く身体が、一歩一歩動かそうと思って動かさないと動けない、というと伝わるかな。
 石渡さんが私の傍に籠を置いてくれる。
「それでは、服を脱いでこの中に入れてください」
 ついに始まる。普段の私ならドキドキして中々動き出せないところだけど、不思議といまはそこまでの羞恥心が湧かなかった。
 身体が石になりかけていることが影響しているのかもしれない。
 なんとなく身体の反応も心の反応も鈍い、という感じ。
 私は動かしにくい身体を駆使して、なんとか服を脱ぐ。ここは天幕で囲われていて、同性の石渡さんしかいないとはいえ、外で裸になるという行為はさすがにちょっと恥ずかしく感じた。
 それでも、思ったよりも抵抗感は少なく、私は裸になることができた。
 普通の人並みに日焼けやら何やらで色のついていた肌は、いまは病的に――病気なんだからある意味当然かな――白く見える。これがもっと病状が進めば灰色になるというのだから、恐ろしい話だった。
 私は石渡さんに手を貸してもらいながら、台座の上へと登る。
「それでは体勢を整えてください」
 石像として置かれるわけだから、妙なポーズを取るとかえって恥ずかしいというのは石渡さんから聞いていた。だから、実際の石像のポーズから、好きなポーズを選んで参考にして、そのポーズを取ることになっている。
 私はその中でも、極力顔に腕が被さるようなポーズを選んでいた。両手を頭の後ろで組み、軽く斜めに状態を傾けて少し俯く。脇や胸を晒すようなポーズで、もし普通の時にやっていたら羞恥に顔が真っ赤になっていることは確実だった。
 足は軽く捻りつつ、開けっぴろげにならないように膝は合わせて足先だけ少し遊ばせた。
 これでポーズは完成。私はそのまましばらくじっとしていなければならない。
 石渡さんが外から見て微調整をしてくれて、手に持っていたタブレットで撮って見せてくれる。自分が石像の振りをしている映像は、なんというか、理由がわかっていても滑稽で、笑えばいいのか泣けばいいのかわからなかった。
 ともあれ、ポーズも取れたのであとはもう待つだけだ。
 自分が石像になる瞬間を。
 そしてそれはわりと早くやってきた。
(あ……足の指先が……動かない……)
 いままでは力を入れればなんとか動いていた足が、棒のように動かなくなっていた。
 頭の後ろで組んだ指先も完全に硬直していて、指先を浮かせることも出来ない。
 まだ動くのは目と舌くらいで、それ以外の身体はどれだけ頑張って動かそうとしても動かせなかった。
 そして、動かせなくなるのと同時に、身体の中にもその影響が現れ始めていた。

つづく
[ 2018/07/20 22:33 ] 小説・短編 石化症 | TB(-) | CM(0)

石化症 2

 お医者さんから石化症という奇病の認定を受けた数日後。
 私はこの病気を治すため、とある公園に連れて来られていた。
「この公園は国が指定する石化症治療のための公園です。管理体制のしっかりしたところなので、安心してください」
 お医者さんに紹介された石化症対策のプロ?らしい女の人はそう請け負ってくれた。彼女は石渡さんという名前で、かつて彼女自身も石化症にかかったことがあるらしい。
 石化している間は全く動けないらしいので、安全に気をつけてもらえるのはとても助かることだった。
 あれから色々話や記録を調べてみたら、昔はそれこそ石化した人を浚っていく事件もあったみたいだし。
 公園の中心には噴水と台座があって、その周辺にはいまは天幕が張り巡らされている。
 私は石渡さんに連れられてその天幕の内側に入る。中は外から見られないようになっていて、私は被っていたフードを外して、一息吐いた。
「さて、改めての確認ですが……本当に最速の一週間コースでよろしいのですね?」
「は、はい。一ヶ月後に大事な試験があるんです。できるだけ早く治して、勉強しないと……!」
 石化症を治すのには視線が必要なのだけど、それはつまり石化した自分の身体を人に見られるということになる。服ごしでは意味が無いので、裸を晒さなければならない。
 それがどうしても耐えられない時は、石の色に似せたビキニとか、顔を見られたくなければお面とかをつけることになっている。
 けれど、そうやって身体を隠すと、それだけ治りが遅くなるらしい。
 例えば要所要所を隠した服装だと二週間も延びるらしいし、顔を隠すとさらに一週間は時間が余分にかかるとか。
 顔だけでも隠したかったけど、この時期に二週間もロスするのは痛すぎる。身バレは怖いけど、石渡さんが石化した時の写真を見せてもらったら、石の時の印象と普段の時の印象は全く違った。並べて比較すればわかるかもしれないけど、そうでなければぱっと見ではわからないと思う。わからないと思いたい。
 最終的には、公園の監視体制がしっかりしているという話を信じて、何も隠さない最速コースを選ぶことにしたのだった。
 その事情はあらかじめ説明してあるので、石渡さんはそれ以上とやかくいうことはなかった。
「わかりました。……気休めになるかはわかりませんが、布藤さんのような方の場合、大抵予定よりも早く石化症が治ります。少しの間の辛抱と思って頑張ってください」
 言いつつ、石渡さんは準備を進めてくれた。
 中心の台座に、その上に登るための簡易の階段を立てかける。
「登るとき落ちないように注意してくださいね。石化後は特殊な樹脂で台座に固定するので安心してください。また、いまは止めていますが台座の周りは水で満たされます。そうすれば万が一石化しているときに落下しても大丈夫です」
 そもそも、完全に石化している時はものすごく硬くなるらしく、ほとんど壊れた事例はないらしい。本当なのかはともかく、自動車に激突されても平気だったとか。
 ともあれ、いよいよ私が石像になる時が近付いて来た。

つづく
[ 2018/07/19 22:43 ] 小説・短編 石化症 | TB(-) | CM(0)

石化症 1

 最近妙に身体が硬くて、服を脱ぎ着するのにも苦労するので、病院に行ったら「あー、これは石化症ですねー」と軽い感じで言われちゃった。
「石化症……?」
 私が首を傾げると、お医者さんは意外そうだった。
「ご存じないですか? ちょっとした奇病で、初めて見つかった何十年か前には相当話題になったんですけどねぇ。身体全体が髪の毛も含めて石みたいに硬くなっちゃう病気です。見た目も石とほぼ変わらなくなりますね」
 そんな病気があったんだ。初めて聞いた。
 というか奇病って。
「あの、大丈夫、なんですよね? 治りますよね?」
「ええ、もちろん」
 力強く頷いてくれるお医者さん。
 私はほっと胸をなで下ろす。
「ただ――」
 なで下ろすのは早かったかもしれない。
「ちょっと治し方が特殊なんですよね……」
 お医者さんはそう呟いたのだった。
 特殊、というのはどういうことだろう。
「薬とかじゃ治らないんですか? まさか、手術しないとダメとか……?」
 私はこれまで大きな怪我も病気もしたことがない。
 だから、手術というのは完全に未知の世界で、胸に不安が広がった。
「ああ、そういうことではないんですよ。順に説明しましょう。まずこの石化症、発症を完全に防ぐ手段はありません。布藤さんは一度完全に石化してしまいます。この段階だと、数日後……というところでしょうか」
「ええ!?」
 いきなり余命数日のようなことを言われて、私は驚く。
 顔が青ざめていくのが自分でもわかった。
 そんな私を宥めるように、お医者さんが続ける。
「安心してください。最初に言ったとおり、治る病気です。完全に石化してしまっても、大丈夫」
「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」
 私はそう聞かざるを得なかった。
 普通に考えて、石化してしまったら死ぬと思うのだけど。
「ええ。わかりやすくいえば冬眠……というか、コールドスリープのようなものです。呼吸も食事も排泄も必要としなくなります。意識はあるらしい……ですが」
 想像以上にすごい奇病だった。
 というか、そんな状態になって本当に治るのかな。
「それで……薬でも手術でもないとすると……どうすれば治るんですか?」
「……それがですね。貴女のような女性の方には大変言いにくいことなのですが」
 お医者さんは少し躊躇いつつも、はっきりと治療法を告げてくれた。
「石になった身体を戻す方法というのは――視線、なんです」
「視線……?」
「はい。石になった身体を出来るだけ多くの人に見て貰うこと、それがこの石化症の治療法になります」

つづく
[ 2018/07/18 22:48 ] 小説・短編 石化症 | TB(-) | CM(0)

ゴム人形ひーちゃん おわり

 わたしが目を覚ましたとき、ひーちゃんはまだゴム人形のままだった。
 寝ぼけつつ、壁にかけた時計で時間を確認。すでにひーちゃんが固定化薬を飲んでから一時間は過ぎている。元に戻っていてもおかしくない時間だった。
「む-。ひーちゃん、おはよう……」
 わたしが欠伸をしながら挨拶しても、ひーちゃんから返事はない。
 じっとひーちゃんの顔を見つめる。穴が空くほど、しっかりと。
 そうしていると、ひーちゃんの瞼がぴくりと動いた。
 わたしは思わず口が笑うのを感じつつ、声をかける。
「驚かそうったってダメだからね、ひーちゃん」
 そう言ってあげると、ひーちゃんは観念したのか、素直に動いて起き上がった。
『……なんですぐわかっちゃうの? ちょっとくらい慌ててくれてもいいのに』
 拗ねたように唇を尖らせているのが、子供っぽくて可愛い。
「ひーちゃん人形のふりがへたくそなんだもん」
 得意げにそう答えつつも、わたしは内心胸をなで下ろしていた。
 一瞬、固定化薬の効果が切れていないんじゃないかと焦ったから。なんとなく寝たふりをしているような気配がしたから、顔に出るほど慌てなくて済んだけど。
 もし、ひーちゃんが元に戻れなくなっていたら。
 意識もなくなって、ただのゴム人形になっていたら。
 最悪の想像が頭を過ぎったのは事実で、けれどそれをひーちゃんに悟られるのも癪だったから強がりで誤魔化した。
「わたしを驚かせたいなら、もっとしっかり演技しないとね!」
『むぅ……やられてばっかり……悔しいわ』
 ひーちゃんは不満そうにしながらも、その身体を生身に戻す。
「うん、元に戻れた。……うーん、それにしても固定化はできなかったわね」
「まだまだ試作段階だからねぇ……まあ、一歩前進したと思えばいいんじゃないかな。そういえばまた実験に協力するように言われてるから、今度はひーちゃんも一緒に行こ? わたしとひーちゃんは薬の効果が違ってきちゃうみたいだし」
 より正確な薬を作るためには、ひーちゃんも実験に参加しなければならない。
 わかってはいたけど、ひーちゃんの不安定ぶりを見て、わたしがひーちゃんの実験参加を止めていた。
 でもそれではダメだとわかった以上、ひーちゃんにも実験に参加して貰わざるを得ない。
「ええ、もちろんよ。そもそも、私は最初から実験に参加するつもりでいたんだから」
 そうひーちゃんは言うけど、そのためにはもっとちゃんとこの体質を扱えるようになってもらわないと困る。
 同類にして、最愛のひーちゃんをわたしは失いたくない。
「実験の日取りはあとで決めるとして~。とりあえずひーちゃんは特訓だね。色々やってもらうよ?」
「うっ……あんまり難しいのは……」
 急に弱気になるひーちゃん。
 これでよく実験に参加すると豪語できるものだ。少し呆れてしまう。
「急に驚かされても変化しちゃわない程度でいいんだけどなぁ」
「うぐ……っ。が、がんばるわ」
 前向きなひーちゃんは可愛いけど、本当に大丈夫かなぁ。
 わたしは心を鬼にしてひーちゃんの能力を鍛える決意をした。
 安全確保のためには仕方ないし、どうせだから色々やってみて欲しいこともあったし。

 これが、ひーちゃん強化計画の始まりだった。


~状態変化なふたり ゴム人形ひーちゃん おわり~

ゴム人形ひーちゃん 4

 ひとしきり空中に浮かべたひーちゃんの姿を堪能してたら、さすがに疲れてきた。
 普通に身体を動かすのとはまた違うのだけど、疲れるのはこの身体でも変わらない。
 ひーちゃんの身体の中に入れた自分の身体を少しずつ出して、ひーちゃんの身体を床に下ろす。そうやって床に転がっていると、全然動かないのも相成って本当にただのゴム人形のように見えてくる。
『うーん。外で固体化薬を飲むのは危険だねぇ。わたしみたいに動けるならまだいいけど……動けないんじゃ、知らない人に好き勝手されちゃうもんね』
 固体化薬の効果は一時間しか利かないから、さすがにその間に処分されるとか、取り返しの付かなくなることにはならないだろうけど、警戒しておくに超したことはない。
 わたしと違ってひーちゃんはこの能力をそこまで使いこなしているとはいえないことだしね。
 それはあとでひーちゃんにも伝えるとして、いまはゴム人形になっちゃったひーちゃんを楽しもうと思う。
 わたしは気体化を解除して、改めてひーちゃんの様子を伺う。ひーちゃんは気を失っているのか、完全に沈黙していて、何も言うこともない。本当にただの人形状態だ。
 そんなひーちゃんの身体を、生身でぺたぺた触ると、ゴム特有の感触が返ってくる。
「……あ、もしかしてこれって……」
 わたしはあることを思いつき、ひーちゃんを抱えて寝室に移動する。生身のひーちゃんだったらこんなに軽々とは運べなかったと思うけど、ゴムになっているひーちゃんは重量も変化している。普通の女性くらいの筋力しかないわたしでも比較的簡単に持ち運べた。
 寝室に着いたら、ひーちゃんをベッドに寝かせて、わたしも布団の中に潜り込んだ。
 素裸でゴムのひーちゃんに抱きつくと、なんとも奇妙で気持ちいい感触が返ってくる。
 いわゆる抱き枕という扱いだ。わたしはひーちゃんと一緒のベッドで寝たいということはあるのだけど、ひーちゃんは恥ずかしいらしくあまり一緒に寝てくれない。
 プレイの後とか、なし崩しに一緒に寝ることはあるけど、そういう時はお互い疲れているのでお互い生身のことが多い。
 だから、いまみたいにゴム化したひーちゃんを抱きしめて寝るのは初めてだ。
 わたしはひーちゃんに身体を絡めるようにして、少し眠ることにした。起きる頃にはひーちゃんも目覚めて動けるようになっていると思うし。
 心地よい反発力を持つひーちゃんの感触に浸りながら、わたしは意識を手放した。


 気づいたら、目の前に真砂の暢気な寝顔があった。
 一瞬状況が掴めなかったわたしだけど、どうやら真砂はわたしを抱えてベッドで寝ているようだった。抱き枕という奴にされている。
 私は真砂にやられて風船のようにされた胸が、いまは元の大きさに戻っていることを確認する。あれは本当に凄まじい行為だった。どれほど凄まじかったか、いずれ真砂にもやり返してやらないと気が済まない。
『本当に気が狂うかと思ったんだからね……』
 ただでさえ敏感なところを拡大されるというのは、その拡大した面積分感覚が増えるということであって、ものすごく……気持ちいいのは確かにそうなのだけど、気持ちいいというのも過ぎれば暴力だ。
 その辺、真砂もわかっているはずなのに、いつまで経っても加減というものを覚えてくれなかった。この身体になったからか、それとも元々素養があったからか、どれほどやられても気が狂うことがないのが、救いといえば救いだけど。
 真砂にも少し痛い目くらい見て欲しいものなのだけど、どうもいつも上手を行かれて上手くいかない。
 私は暢気に眠る真砂の頬を突っついた。

つづく

ゴム人形ひーちゃん 3

 普通、おっぱいの中に空気が入ったりはしない。
 けれどその空気自体の意思で、入り込もうとしたらどうだろうか。答えはこうだ。
 ひーちゃんのお胸が風船のようにぷっくりと膨らんだ。
『ひいあああああああ!!!』
 悲鳴をあげるひーちゃん。おっぱいの隅々まで気体が行き渡り、恐ろしく大きな感覚を生み出しているようだった。
 ゴム人形化してるひーちゃんの身体は良く伸びるから、それこそまさにゴム風船みたいな膨らみ方をしている。
「うわー。すごい巨乳になっちゃったよひーちゃん。漫画みたい」
 巨乳とか爆乳とかを通り越して、これはもう超乳だ。ひーちゃんは自分の胸を自分の腕で抱え込むことも出来ないだろう。
 ふと、もしこの気体がヘリウムだったら、それこそ漫画みたいに空に浮かび上がることが出来るのだろうかと思った。この量でどれくらいの重さのものが持ち上がるのかわからないからただの妄想だけど。
 わたしは両腕を気体化させてしまっているので、全身でひーちゃんのおっぱい風船に埋もれに行った。中々反発力があって気持ちいい。
『ひゃあんっ、やめっ、はねないでっ』
 わたしがダイブした拍子に、ひーちゃんの乳房が上下左右に大きく揺れる。根元が千切れてしまわないかちょっと心配だったけど、特に問題なさそうだ。でもあまり跳ねすぎるとかわいそうなので、中に入れた気体を動かして止めてあげる。
 その時、天啓が閃いた。
 わたしたちが気体化したとき、その身体も思い通りに動かすことが出来る。それはつまり、上に昇るということも可能ということ。ヘリウムになるわけじゃないけど、ヘリウムと同じ効果を発揮することはできるはずだ。
 そう思ったらやってみないと気が済まない。わたしは一端ひーちゃんから離れて、ひーちゃんのおっぱいの中に入っている自分の気体の身体を、天井に向けて移動させた。
『ちょ、ちょっと真砂……なにを……』
 不安そうにひーちゃんが呟いているけど、わたしは自分の思いつきを形にするべく、思いっきり上に向けて身体を移動させる。
 顔の倍以上に膨らんだひーちゃんのおっぱいが持ち上がり、ひーちゃんの視界を完全に覆ってもなお上に向けて移動し続ける。
『なに? なに? なんなの?』
 自分のおっぱいで視界が塞がれたひーちゃんは、何がなんだかよくわかっていない様子だった。わたしはそれに答える余裕がない。
(さ、さすがに重い……! 腕の分だけじゃダメか……!)
 わたしはそう判断し、全身を気体化させた。
 顔の部分まで入ってしまうとひーちゃんの様子がみれなくなってしまうので、そこは外に残して、残りの身体をひーちゃんの胸の中に注ぎ込んでいく。
 ますますひーちゃんのおっぱいは巨大化を続け、もう片方の乳房だけで胴体以上の大きさになっていた。
 それだけ巨大化すると感じる快感も凄まじいのか、ひーちゃんからは悲鳴のような喘ぎ声しか聞こえなくなった。
(量は十分……あとは持ち上がるか……!)
 題してひーちゃん風船化計画。
 わたしは渾身の力を込めて自分の身体を天井に向けて動かす。
 そしてついに、ゴム人形として固まっているひーちゃんの足が、地面から離れた。
 ゆっくりと天井に向けて昇っていき、その乳首が天井に擦れる。案の定凄まじい快感が走ったのか、大きな悲鳴をあげた後、ひーちゃんは静かになった。
 少し心配になったけど、たぶん大丈夫だろう。
 わたしは首だけになってふわふわと空中を漂いながら、形は違えど空中を漂うひーちゃんの姿を満喫するのだった。

つづく
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Author:夜空さくら

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