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星霜雪形

状態変化系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

機械化外装 おわり


 スイッチを切ると、動きを止めた彼女のカメラアイから、意思の光が完全に消える。
 見た目はまったく変わっていないはずなのだが、意思のあるなしで見え方が変わってくるのは、考えてみれば不思議な話だ。
「まあ、その辺は俺の研究分野じゃないしな……それより」
 さっきまでやかましかったのに、何も言わなくなったそいつを、俺を改めてじっくりと観察する。主に見るのは、胸の辺りだ。
「……よし、意識をオフにしても、生命維持活動は止まっていないな」
 意識をオフにした拍子に、生身の部分の活動まで止まってしまったらすぐに戻さなければならないところだった。
 だが、そいつの柔らかな生身の体は、肩を小さく上下させ、呼吸をして胸を膨らませている。ちゃんと呼吸をしている証拠だ。上手く意識だけをオフにすることができたようだ。
 今度は直接胸に触れてみる。
 邪な考えで触れたわけではなく、心臓がちゃんと動いているかを確かめるためだ。
 そいつの乳房は触れた俺の掌を押し返すほどのボリュームがある。そのせいか若干わかりづらかったが、ちゃんと心臓が動いているのが確認出来た。
「それにしても……こいつ、すごい体してるよな……」
 グラビアアイドルに興味がないので、最近のアイドルがどういったものかはよくわからないが、俺が青春を過ごしていた頃のグラビアアイドルがまさにこんな感じだった。
 胸が大きく、手足が長く細い。
 顔も小顔で、肌はシミ一つ無い色白。
 さらに日本人らしい黒髪が綺麗に整えられている。
 男好きしそうな見た目とでもいえば的確だろうか。
 講義を平気な顔で休むという、いかにも軽薄な性格からすると派手さは控えめだが、それは恐らくこの方が男受けがいいことを熟知しての選択だろう。
 実際、彼女の周りには何かと彼女の世話を焼いている男が多いように思う。どういう格好をして、どんな風に話して動けば男が惹かれるのか熟知しているのだ。
 俺はその男受けする要素の中でも、大きなファクターを占めていると思われる乳房を改めて眺めた。大きくて柔らかく、形もいい乳房。この胸をちらつかせるだけで、世の中の大半の男は思わず心を奪われるはずだ。
 自他共に認める研究馬鹿の俺でさえ、少し『くる』ものを感じているのだから、普通の男がそれに反応しないでいられることなんて、ほぼないと言っても過言ではないだろう。反応しないのはよほどの特殊性癖持ちだけだ。
「まあ、特殊性癖持ちでも、それにしか反応しないわけでもないとは思うが……」
 単にその要素に対する反応が激しいというだけで、男なら女の体を見れば多少は反応するし、逆に女もそうだろう。まあ、それはさておき。
 俺がぶつぶつ呟いている間も、文句一つ言わず、じっと待っている目の前の女学生に意識を戻す。
 いつも講義で騒がしく、不真面目な彼女がこれほど静かになっているのは、そうそうないことだ。
 いつもならそろそろ携帯を弄り出すなり、なんなりし始めているところだろうが、機械化されたいまの彼女は何もしない。
 機械化でもしないと静かにならない不真面目さはなんとかならないものか。
「体の手入れにかける情熱を、もっと勉学にも向けてくれればなぁ……」
 単位目的の受講というのはわかっているつもりだが、それでも虚しくなる。
 今回の件だってそうだ。
「もっと驚いてくれないと、研究成果を見せた甲斐がないんだよなぁ」
 人間の身体を機械に置き換える『機械化外装』は俺の長年の研究の集大成だ。
 その素晴らしさ、凄さに、もっと驚いてもらいたかった。
 理屈がわからないのは当然だとしても、起きた現象自体にもっと驚いて欲しかったというのが、俺の本心だった。
 特に頭部の機械化など、まともな知識を持った者ならその場で卒倒して俺を神か悪魔かというくらいに崇拝し始めてもおかしくない。
 そのはずなのだが。
 まさかあんなに気のない反応をされるとは思っていなかった。
「まあ、単位欲しさに講義を受けている学生なんて、そんなものだよなぁ」
 色々と不満はあったが、それにばかり目を向けていても仕方ない。

 実験はまだこれからなのだから。

 俺は座っている女学生の後ろに回り込んで、その機械になった頭を両手で掴む。
 首元とうなじにあるスイッチを同時に押し込み、軽く上に引っ張ると、女学生の頭があっさり取れた。右手と首元が機械化した首無しの胴体は、首が離れても同じ姿勢を維持し続けている。
 呼吸は首の断面から直接空気を吸うようになっているので、切断面を服や体で覆わないように注意しなければならない。
 本当は空気供給にはもっと違う手段を取りたいのだが、あまり弄りすぎると問題が生じた時に直しづらいし、今後の課題ということにしている。
 机の上に置いた女学生の頭部を、休眠モードから指示実行モードへと変更。
 さっそく指示を出す、前に。
「一端こいつは外しておくか。大丈夫だとは思うが……」
 俺は女学生の腕を生身に戻した後、機械化外装を取り外した。首回りだけが機械となった人形となる。
 その状態にしたそいつの頭に向かって、俺は指示を出した。
「身に付けている服を全て脱げ」
 すると、機械と化した女学生の頭部が瞼を開き、淡々とした声で承諾の意を示す。
『了解シマシタ』
 ほぼ生身の胴体が動き出し、身に付けている服を手早く脱いでいく。
 上下揃った可愛らしい下着が露わになった。本来なら彼氏や同性の友人しか見ることは出来ないであろう姿を、彼女は堂々と晒して、恥ずかしがる様子もない。
 そもそも首がないので、恥ずかしがりようもないが。
「首から上のない姿、か……デュラハンを思い出すな」
 そういえばデュラハンも基本的には女性なのだったか。この機械化外装を使えば、そういった存在も簡単に再現出来る。
 そんなことに使うかどうかはともかく、可能性の感じる技術だった。いつか一般にも広まることがあれば、そういった使い方をする者がいてもおかしくないだろう。
 そういった、あって当然の技術になるよう、いまは実験を続けるだけだ。
 俺が何かと自問自答している間に、女学生は残った下着も脱ぎ捨て、全裸になっていた。
 均整の取れた体をあますことなくさらけ出している。その体に汚れやシミは一切見当たらず、ただひたすらに綺麗という言葉が頭をよぎる。
 その素晴らしき女体に、思わずごくりと息を呑んだ。
「っと、と……あぶない危ない……」
 一瞬、自制心が揺らいだのを、俺は自覚していた。
 俺をここまで欲情させるとは全く侮れない女体である。
 だが服を脱がせたのは、そういう行為が目的ではない。
 俺がまず用意したのは、四肢を覆う機械化外装だ。
 それを女学生の前に翳して、見せながら命令を口にする。
「これを着せやすいように体を動かせ。それ以外は勝手に動かすな」
 少々ファジーな命令ではあるが、機械化したのは人間の脳だ。人間が理解出来る命令なら、理解できる。
(元にした女学生の程度が程度だから、少し心配だが……まあ、脳の能力的には全く問題ないはずだ。むしろ機械化され、その能力を遺憾なく発揮出来るはずだから……)
 いま俺が言った程度の命令は確実に実行できるはずである。
 若干不安になりつつも、俺は彼女に機械化外装を着せていく。
 四肢を付け根辺りまで覆うとはいえ、相手の協力があれば、両手両足の機械化外装は着せやすい。
 細く、しかしガリガリというわけではなく、ほどよく肉がついた両手両足を機械化外装が覆う。付け根辺りまで完全に機械化外装が覆い、見た目だけなら胴体以外全て機械となった。
 まだ外装の力は発揮させず、次の作業に移る。次に用意したのは、下腹部を覆うパーツだ。へその下辺りまでを覆う。金属で出来たパンツを穿かせているようなものだが、極力体のラインに沿う形に出来ているので、いうほど不細工ではない。
 さらに続けてコルセットのようなパーツを取り出し、女学生のあばらの下からへその上まで、一般的にお腹と呼ぶ範囲を覆った。そのパーツと下半身を覆うパーツは上手く噛み合うように出来ており、見た目は球体関節人形の腰の部分のようだ。
 最後に、肩から背中、胸部や乳房を覆うパーツを用いて、彼女の体を完全に機械化外装の中に閉じ込める。
 見た目だけは完全に機械人形と化した。
 俺は額に浮かんだ汗を拭いながら、ふうと一息吐いた。機械化外装はさほど重くはないのだが、それでも全身分を身に付けさせようと思えば、相当な労力になる。装着に関してはもう少し改良が必要なようだ。
 それは今後の課題として。
「さて……問題はここからだな」
 機械化外装の実験は、自分の身体でも当然行っている。
 だが、頭部を含めた全身を同時に機械化するということはしていなかった。
 何らかの不具合が生じた時、どうしようもできなくなるからだ。だから協力者が必要だったのである。もし何か不具合が起きても、俺がなんとかすることができる。
 単位を餌にして女学生を協力させた甲斐があるというものだ。
 何かが起きるかもしれないという緊張が膨れあがってきた。一応理屈の上では問題がないはずだが。
 深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。機械化外装を遠隔操作するためのリモコンを手に取った。
「ふー。……よし。スイッチ、オン!」
 女学生の全身から、機械化外装の動く音がして、女学生の体が全て機械に置き換わっていく。女学生の体は小さく震えていた。それは生身の体が作り替えられる際に発した断末魔か、あるいは単に機械としての震動なのか。
 そうしてさほど待つということもなく、機械化外装による女学生の全身機械化か完了し、再び静かになった。
 取り外して机の上に置いてある頭部に向けて尋ねる。
「何か、不具合や不調はあるか?」
『アリマセン。状態ハ、オールグリーンデス』
 その言葉を聞き、俺はほっと息を吐いた。元に戻すまで油断は出来ないが、本当に問題が無いのであれば、機械化外装の完成は飛躍的に進んだということだ。
「胸部外装を開け」
『承知シマシタ』
 俺の命令に従って、機械化した女学生の胸部が真ん中から左右に開いていく。
 その中には人間の臓器のような形をした、様々な機械が並んでいた。肺も心臓も肝臓も、全てが機械に置き換わっている。
 俺はそれらをひとつひとつ丹念に確認していった。
「ふむ……人体はいまだ謎に包まれた部分が多いが……こうして機械に置き換えてしまえば、見えてくるものがありそうだな……」
 機械化した状態で欠陥を修復してから元に戻せば、不治の病でも治せるかもしれない。
 ガン細胞の摘出も遙かに容易になるし、何度施術したところで、体に負担をかけることもない。
 それだけ、無限の可能性がある技術なのだ。
 だというのに、この女学生はその素晴らしさを全く理解しなかった。出来なかったのかもしれないが、いずれにせよ怒りが湧いてくる。
「まあ、いいさ。色々と試したいことがあるからな……」
 単位さえ出しておけば文句を言われることもないだろう。
 そもそも、まだこの機械化外装のことを外に漏らされては困るので、対策はするつもりだったし。
 俺はそう考えつつ、まずは女学生の頭部を弄る。作り物の髪は、カバーと化した頭皮と一体化しているので、その頭皮と一緒に剥がす。
 取り外すと精巧なカツラのようだ。案外、これだけを生身の人間に被せてもいいかもしれない。需要はありそうである。
(まあ、その場合機械化した方は生身に戻れないけどな……)
 機械化外装には安全のため、生命に関わるような状態では生身に戻れないようになっている。例えば機械化した心臓だけを取り出してしまえば、機械化外装のスイッチは切れなくなる。心臓がない状態で生身に戻ったら死んでしまうからだ。
 逆に言えば生命に関わらない範囲であればその状態で生身に戻すことも出来る。
 俺は女学生から取り外した頭皮カバーを脇に置き、露わになった頭蓋骨を直接弄る。頭蓋骨といっても機械化しているから、ハッチと変わらない。
 頭蓋骨のハッチは半分に分かれ、機械化した脳が露出する。機械化した脳はいわば超高性能のコンピューターだ。昔のSF小説などでは、人間の脳に電極を繋いで、高性能の演算能力を発揮する生体コンピューターにする話があった。
 いまではコンピューター自体の性能が飛躍的に高まって、人間の脳ではあまり足しにならないが、それはそれ。イメージとしてわかりやすいのは大事だ。
 ゆえに、機械化外装によって機械化された脳には、ケーブルを挿すためのコネクタがあっった。そこに直接ケーブルを繋ぎ、俺の研究用のパソコンと連動させる。
 パソコンの画面には、女学生の脳に蓄積されたデータが表示されていた。
 感覚、知識、記憶、人格、習性。
 その他脳が司るありとあらゆる要素が、データとして画面に表示されている。
「騒がれても面倒だから……ちょっと記憶データを弄らないと」
 ついでに真面目に講義を受けるように人格データも弄ろうかと思ったが、本人の承諾も得ずにそこまでやってしまっては、俺は極悪非道な研究員になってしまう。
 あくまで俺の行動は研究のためでなくてはいけない。
 そもそもやるならしっかり事前の演算を行い、どのような影響が出るかを見据えてからやるべきだ。
(いずれやるべきかもしれないが、いまじゃないな)
 そんなことを考えつつ、彼女の記憶データの中から、今日研究室に入ってからスイッチを切るまでの記憶を丸ごとカットして俺のパソコンの中に移しておく。削除してしまってもいいが、万が一のことを考えると残しておいた方がいい。
「おっと、そうだ。コマンドワードを仕込んでおかないとな」
 今後、経過を観察する際、今回のような手間を毎回かけていては効率が悪い。生身の状態でもそのコマンドワードを用いれば、彼女を俺の意のままにすることが出来るようにする。
 俺の指示に無条件に従う人形モードという奴だ。催眠や洗脳ものでよく見る手法だが、便利なので真似させてもらうことにした。
 これで、精神的な面での処理は完了した。
 次は体の方の処理だ。
「色々と試しておきたいこともあるしな……どこまでやってみるか」
 試してみたい実験は山のようにあるが、あれもこれもと欲張ると成果がよくわからなくなる可能性がある。とはいえ時間は有限なので出来ることは一度に試してしまいたい。
 ある程度のロードマップは作成しているとはいえ、状態を確かめながら行わなければならないことも多く、なかなか骨が折れそうな作業になるだろう。
 俺はとりあえず用の済んだ頭部のハッチを閉じて、頭皮カバーを元通りに着け直してやりながら、行うべき実験をひとつずつ試していくことにした。
 まずは機械化した彼女の外見を改めて確認する。
 機械化外装による変化は、彼女を見た目完全な機械に変えてしまっていた。関節部分には稼働するための隙間があり、一目見れば彼女の体が機械であることは明らかだ。
 スキンに関しては極力人間に似せたものになっているが、血の通っていないそれは色白を通り越して白すぎて、無機質な印象を与える。
 ただ、機械の冷たい印象ばかりかといえばそうではない。柔らかな曲線を描く体の線は、極めて人間らしいものだ。そう見えるように調整されているため、関節部分を隠してしまえば雑踏に紛れることは容易だろう。
 カメラアイなど、明らかに生身でない要素はあるため、対面して見つめ合えばさすがに違和感を覚えるだろうが、擦れ違うだけであれば気づかれない方が可能性は高い。
 そんな彼女の完璧な姿に俺は満足する。
「机の上に寝ろ」
「了解シマシタ」
 作業台として用意してある、大きめの机の上に、機械化女学生が体を横たえる。
 その上で、俺は彼女の胸部に手をかけた。重力にしたがって少し潰れたような形になっている乳房。いまは機械化されているため、感触はゴムのようなものに変わっていたが、触れていてなかなか気持ちの良いものだ。
 左右の乳房を押し広げるようにして、胸の中心線に手をかける。観音開きの扉を開く時のように、女学生の胸部が左右に開いた。機械化された彼女の内蔵が露わになる。
「ふむ。疾患らしきものはなさそうだな。タバコもやっていないようだ」
 タバコを吸っている者だと肺の器官にタール状のものが溜まっていることがある。あれを見るとタバコを吸う気も失せるが、もし実用化されたら毎日掃除してでもタバコを吸いたいという奴も出て来るのだろう。
「まあ、技術をどう使うかは人次第だからな……」
 俺はあくまで開発者。技術がどう活かされるかは、使う人間が考えればいいことだ。
 ひとまず病巣らしきものは何もなさそうだ。機械化された臓器をひとつずつ取り外していく。
 俺自身で試した時に取り出した臓器と比べると、どれも綺麗だ。経年劣化というものは人体にも当然存在するのだろう。
 一通りすべての臓器を外し、女学生の上半身の内部はがらんどうになった。
 そこに、あらかじめ作っておいた人工臓器を詰めていく。接合部は多少ファジーに作っているため、問題はないだろう。肺、心臓、食道、胃、と全て人工の臓器に入れ替える。
 今度は下腹部だ。同様に真ん中からハッチを開き、中の臓器を取り替えていく。
 一通り全ての臓器を入れ替え終わったら、ハッチを閉める。見た目だけは何も変わっていないが、中身はほぼ入れ替えられた。
「これでよし……と。立て」
「了解しました」
 命令に従って女学生が立ち上がる。
 ここからが本題だ。
 俺は上半身の機械化外装を解除した。ぷしゅう、と音がして機械化外装がその部分の機械化を解除する。
 上半身を覆う外装を取り外してみると、見た目は最初の生身と同じ綺麗な裸の上半身が露わになる。
「さて、これでどうなっているか……」
 聴診器を使って心臓の鼓動を聞いてみることにした。
 どくん、どくんという普通と変わらぬ心臓の音。だがその中に微かな機械の音が混じっている。
 X線と同じように、体の内部が透けてみえるゴーグルを用いて、中身を確認。
 そこには、生体部分に複雑に機械が絡みあった奇妙なものが映し出されていた。
「おお……これはすごい……やはり、こうなるのか……」
 ある程度の実験はしていてわかっていたことだが、生身の臓器を人工の臓器に入れ替え、その上で外装の機械化を解除すると、外見は完全に生身で、中身は機械と生身が混ざり合った奇妙な状態になる。
 この状態になると、色々と面白いことが出来るようになるのだ。
 俺は研究のため、さらに彼女の体を弄っていく。




 あたしは、なぜか先生の実験室で目を覚ました。
「んにゅ…… あたし、寝てた……?」
 ソファに寝かされていたようで、身体を起こすとかけられていた毛布がずり落ちる。目を擦りながら声を上げると、机に座っていた先生が、呆れ気味にあたしに目線を向けてきた。
「ああ、よーく寝ていたとも。ちっとも起きないから、もうこんなに遅い時間だ」
 そういって先生が指さした壁掛け時計は、夜の九時くらいを差していた。
「ええーっ! ちょっとせんせー! 起こしてよ!」
 友達との約束とか、色々予定があったのに。
 そう抗議を込めて言うと、先生は深々と溜息を吐いた。
「あのなぁ。俺は何度も起こしたぞ。起きなかったお前が悪い」
 あたしに責任を押しつける先生。実際起きれなかったのだから、仕方ないというのはわかるけど、なんだか腹正しい。
「う~……せんせー。あたしが寝てる間に、変なことしてないよね?」
 先生の研究室はあまり人が来るところじゃないし、なぜか一般の講義練からも離れている。先生が眠っていたあたしに何かイヤラシいことしていても、それに気づける人はいない。
(……なにもされてないよね?)
 一応服に乱れはないみたいだし、体にも特に変な感じはしなかった。
 先生に対する若干の嫌がらせを込めて言ってみたけど、先生はどこ吹く風という感じだった。
「人の研究室で無防備にぐーすか寝こけてた奴がいえた台詞か。帰るならさっさと帰れ。邪魔だ」
 しっし、とまるで猫でも追い払うかのように手を振る先生。
 なんだかそういう対象外だと言われているような気がして、それはそれで不満だった。
(いや……別にせんせーにどう思われてようが構わないけどさぁ……微塵も動揺されないっていうのも、なんていうか……別に構わないけどさ……)
 ここで先生に何を言っても始まらない。あたしは大人しく立ち上がった。
 なんだか体が軽い。よく寝たからだろうか。
「ああ、そうそう。研究に付き合ってくれた礼だ。こいつを持って行け」
 そういって先生が机の上においたのは、やけに可愛らしい猫の人形だった。あたしはそんなに猫が好きな方ではないのだけど、その猫の人形に限っては物凄く可愛く感じる。
「え、なにこれカワイイ! これ、どうしたの?」
「どこだったか忘れたが、旅行の土産でもらったんだ。俺には子供はいないから要らんと言ったんだが、ものはいいから受け取れと言われてな……処分に困っていた」
「えー。なに、お土産の横流しってこと?」
「要らんのなら別にいいが」
「いる! 欲しい!」
 机の上からかすめ取るようにして猫の人形を腕に抱える。先生のような男の人に抱えられるよりは、あたしに抱えられる方がこの猫の人形ちゃんも嬉しいだろう。
 先生は厄介払いが出来て満足したのか、にやりと笑っていた。
「よし、それじゃあ今日はもう帰れ。また協力してもらうからな」
「もうやだよっ。じゃあねっ、せんせー」
 あたしはさっさと先生の研究室を後にする。これ以上何か変なことを押しつけられるのもやだし。
 可愛い猫のぬいぐるみを抱いて、あたしは大学を後にした。




 目論見通り、猫のぬいぐるみを抱えた女学生が帰って行った後、俺は机の中にしまっておいたものを取り出す。
 円筒形のそれは、女学生から取り外した女性器と膣道だった。ピンク色をしているそれは、有り体に言って非常にあれっぽいというか、男性が性処理に使うものにしか見えないというか。
 機械化外装を用いて彼女から取り外したのだ。
 代わりの物も入れなかったため、現在彼女の股間からは膣がなくなっている。子宮や卵巣、卵管なども取り外しているので、彼女の下腹部からはごっそり性器が無くなっていることになる。
「生命維持活動には関係ないから、いけるのはわかっていたが……究極の貞操帯として機能しそうだなこれなら」
 性犯罪の深刻化が叫ばれる昨今、機械化外装が実用化されたら、性器は取り外して保管しておくのが当たり前になるかもしれない。
「ふふ……そうなったら、世界が変わるな」
 研究に打ち込み、人生を捧げている俺だが、自分の作った物が世界に影響を与えることが嬉しくない訳がない。
 まあ、未来のことはさておき、現在だ。
 女学生の股間には現在、尿道と肛門しか存在していない。
 それさえあれば排泄は出来るわけだから、暫くは問題ないだろう。勿論本人の認識は弄っていて、性器の喪失には気づけないようになっている。恋人もいないようだったから、他の人間に気づかれることもまずないはずだ。
「まずは確認だ」
 パソコンを立ち上げ、ソフトを呼び出す。
 暫くして地図が表示され、女学生がどこにいるかを示す点が現れた。
 女学生の体は見た目こそ生身のそれだが、中身は機械化外装を応用してかなりの部分を機械化している。それらの情報をリアルタイムで発信しているのだ。
『ふん、ふん、ふ~ん♪』
 女学生は上機嫌に鼻歌を口ずさみながら歩いているようで、スピーカーから彼女の鼻歌が聞こえてきていた。
「ふむ……いまのところ問題はない、か」
 数値的にも特に問題は生じていないようだ。
 俺は机の上に取り出しておいた女学生の女性器を見る。彼女の体に女性器に代替するものは埋め込んでいない。
 その状態で、ここにある女性器を弄ればどうなるか。
 機械化した体のパーツを、これほど遠くに引き離してから弄るのは初めてのことだ。まして、全体的には生身に戻っている状態。仮説はあるが、実際にどうなるかはこれから確かめる。
 まず、性器の表面、外陰部を指で軽くなぞる。
『ふふーん、ふ、ひぁっ!?』
 女学生が調子よく歌っていた鼻歌が止まり、素っ頓狂な声が聞こえてくる。
 一気に女学生から発信されている数値が乱れ、驚愕と羞恥に染まるのがわかった。
「こっちの感覚をちゃんと向こうで感じれているのか……こっちの性器に信号を発信する機能はないはずなんだが」
 電波などの信号で感じているわけではないのだとすれば、一体どうやって感じているのだろうか。
 機械化したというだけでは説明のつかない現象で、どう考えるべきか個人的にも悩む。
「今後の課題だな……開発者がわからないじゃ格好がつかん……」
 適当に手元の性器をつんつんと突いていると、パソコンの向こうの女学生の声が徐々に驚愕から快感を覚えている物に変わっていった。さらに、突いていた女性器の内側から、どろりとした液体が滲み出してくる。
 どうやら、ただ突かれているだけにも関わらず、性的に感じているようだった。性器のみとなり、本人の意思が介在しなくなったことで、余計なセーブがかからなくなっているのかもしれない。
 刺激を与えられれば、それを純粋に快感に転化しているようだ。
 ただ、そうだとしてもそれを受け取る意識側は大変だろう。どんな意識であっても、強い快感を受け取ってしまうということなのだから。
『ふぁっ、なに、これぇっ……!』
 向こうの方でも快感の数値が高まりつつあった。それを阻害しているのは、羞恥心や自制心といった心の動きだ。
 考えてみれば、まだ彼女は帰宅の途中であった。
 地図上の位置からすると、雑踏の中を歩いている時に突然気持ちよくなったわけだから、驚愕するのも無理はない。
 周りには人の目もあるだろうし、感じる羞恥も相当なものだろう。
 さらに現在彼女は性器のことを意識できないように、認識が弄られている。気持ちよくなっていることは認識出来ても、どこがどう影響して気持ちよくなっているかはわからないわけだ。困惑の数値が大きいのも当たり前だろう。
「あまりやりすぎると、警察沙汰になりかねないからな……ひとまずこれくらいにしておくか」
 様子がおかしいと警察を呼ばれる可能性がある。痴女として彼女が捕まるのは、こちらとしても都合が悪いので、そうならないように控えなければならなかった。
 俺はいったん女学生の性器を机の上に戻す。
 お楽しみは彼女が家に帰ってからだ。
 俺は自他ともに認める研究馬鹿ではあるが、性的な楽しみに完全に興味がないわけではない。もしそうだとしたら実験のためとはいえ、あえて性器を抜き出したりはしなかった。
(しかし……可能性を感じる技術なだけに……)
 最初から『そういうこと』にしか興味のない人間がこの技術を使った時、どんなことをするのか、非常に気になるところだ。
(悪用される危険もあるが……何人か、テスターを用意してみるか)

 機械化外装のさらなる完成に向け、時には『楽しみ』つつ――研究を続けるのだった。

~機械化外装 おわり~
[ 2019/05/22 23:12 ] 小説・短編 機械化外装 | TB(-) | CM(0)

機械化外装 3


 あたしの手が、あたしのものじゃなくなった。
 だらりと力無く垂れ下がったあたしの手は、あたしがいくら動かそうとしても動いてくれなかった。
「せ、せんせー? 手が、動かなくなっちゃったんだけど……」
「そりゃそうだ。スイッチを切ったからな」
 当然だろう、とばかりにいう先生。
 色々説明不足なのに当然だという顔をされて、あたしはかなり不満だった。
「さっきみたいに暴れられるとあぶないからな。しばらく大人しくしてろ」
 先生はなにやら他の道具を取り出している。それはあたしがいま身に付けているような、腕の形をした機械だった。それを先生が自分の手に嵌める。
「よし。これで準備は完了。自分の手をよく見てろ」
 そういって先生が自分の手を持ち上げると、それに合わせるようにあたしの腕も動いた。
 そして先生が自分の頬をつま――あいたた!
「へんひぇー! ひゃにするの!」
 先生の腕に連動して動くということは、あたしの腕も同じようにあたしの頬を摘まんでくるということだ。
 あたしの意思に関係なく自分の手に自分の頬を引っ張られて、思わずあたしは自分の手を止めようと、その機械の手を掴んだけど、機械の腕はびくともしなかった。
「ふはっ。ふごいふぁろう」
 自分の頬も引っ張ったままだと話し辛いことに気づいたのか、先生が自分の頬から手を離す。それと同時に、あたしの手も頬から指を離した。
「あくまで俺の腕の力に連動して動いているだけだから、機械の腕でも力加減を誤ることはない。遠隔地からの操作でも問題がないというわけだ。さらに……」
 先生はあたしに椅子に座るように言った。
 早く済ませて欲しくて、あたしはそれに素直に従う。

 後から思えば、このときに何がなんでも逃げるべきだった。

 先生はあたしの身体を見ながら、自分の腕を動かして、あたしの腕に椅子の足を掴ませる。その状態で、先生が自分の腕に付けている腕を外した。
 すると、あたしの腕は椅子の脚を掴んだまま動かなくなって、固定されてしまう。
「このように、好きな状態で固定することも出来る。色々応用が利くと思わないか?」
「……よくわかんない」
 素直にそう応えると、先生はがっくりと肩を落とした。
「お前は本当に馬鹿なんだな……よくうちの大学に入れたもんだ」
 そこまで言わなくていいと思う。
「せんせー……そろそろ元に戻してよ……帰りたいし」
 もう十分すぎるくらい付き合ったはずだ。自分の腕が自由に動かないというのもそろそろ怖くなってきたし。
 けれど、先生はまだ満足していないようだった。
「まあ待て。まだ試したいことがある。……そうだな。確かにお前の協力は必要だが、お前は必要ではないから……こっちからの方が良いか」
 先生がまたよくわからないことをいいながら、あたしの後ろに回り込む。後ろを振り向こうにも、片手が固定されているので難しい。
「せ、せんせー?」
 なんとなく嫌な予感がした。
 そのあたしの予感は、いきなり視界が暗転して正しかったと知る。
 後ろに回った先生が、何かをあたしの頭に被せたのだ。
「うぷっ、な、なにするのせんせー!」
 自由な方の手で被さって来たものを押しのけようとしたら、先生の手があたしの手を押さえ込んで来た。
「じっとしてろ。あぶないぞ」
 この状態でじっとなんてしていられない。立ち上がってでも無理矢理抵抗しようと、足に力を込めようとした瞬間。
 頭全体が、被せられたものによって締め付けられた。
「んぎっ、ぎぎっ、せ、んせ……っ」
 その感覚は、さっき味わったばかりの感覚だった。
 機械化手袋を嵌められて、腕が機械化した時の、感覚。
 あたしの頭が、それと同じように、締め付けられて、組み替えられて――機械へと変わっていく。
 あっという間の出来事だった。
 目が見えるようになったとき、あたしの頭は、完全に機械のそれへと変わっていた。
 目を動かすと、キュイ、とカメラのレンズが動くような音がする。
 いままで普通に見えていた視界に、なにやら不思議なフキダシが出るようになっていて、それに意識を集中すると、フキダシが展開して細かい文字で様々な情報が見られるようになっている。
 先生を見つめると、先生の名前やプロフィールが出る。体重とか年齢とか、あたしの知るはずのない情報が出ていた。
『なにこれ……っ、んんっ?』
 思わず声をあげると、あたしの声だけどあたしの声じゃない声が喉の奥から出た。あたしの声を録音して、スピーカーから流しているような、個性はあるけど妙に機械的な声になっている。
 思わず喉に触れて見ると、硬い感触がした。首の付け根、鎖骨の上あたりくらいまでが機械に置き換えられているみたいだ。
「よし。成功だな。気分が悪かったりするか?」
 体調として気持ち悪いということはなかったけど、気分が良いはずがない。
『そんなの、悪いに決まって……決まって……きま、って……あれ?』
 あたしは不思議な感覚に陥っていた。
 さっきまでは、腕が機械になってしまったり、その腕を先生に勝手に動かされたり、いきなり顔に何かを被せられて頭を機械にされてしまったりして、怖くて、不快で、気分が悪かったはずなのに。
 確かに、気分が悪かったはずなのに。
「悪くないだろう?」
 そう、先生のいうとおり、気分は悪くなかった。
 感じていたはずの戸惑いや恐怖、憤りといった感情が綺麗さっぱりなくなっている。妙に頭が冷えているというか、あたしにしてはあり得ないくらいに冷静だった。
「頭部を機械化するとな、感情値も弄れるようになるんだよ。ストレスも削除するだけで解消出来るし、画期的な発明だろう?」
 先生はどや顔でいうけれど、それはとても恐ろしい発明なのではないだろうか。
 だって感情というものは、そんな簡単に書き換えられていいものではないはずだ。他人が好き勝手弄くっていいものではないと思う。

 そう頭では考えているのに――恐怖心が湧かないというのも、変だった。

『せんせ、もどして』
 すぐに元に戻らなければならない。そう考えた。焦燥感などは感じないけど、感じないのが何よりもおかしかった。
 けれど先生は、首を縦に振ってはくれない。
「まだ協力して欲しいことがあるっていったろ? 安心しろ。お前の意識は切っておくから、お前の主観的にはすぐ終わる」
 あたしが何かを言う暇もなく。
 先生が何かの操作をすると同時に、あたしの意識は、それこそ本当に電源が切れるようにして、暗転した。

つづく
[ 2019/05/09 21:06 ] 小説・短編 機械化外装 | TB(-) | CM(0)

機械化外装 2


 指先を曲げて見ると、まさに機械が動くときのような歯車の回る音がして、指が曲がる。
 動かしている、という感覚はあるし、実際眼に見えて動いてはいるのだけど、なんだか奇妙な感覚だった。
 思わず機械の左手を生身の右手で触れて見ると、右手からはひんやりとした冷たい感触がしたのに、左手側からは何の感触もしなかった。
 その奇妙な状態に、あたしはパニックになる。
「せ、せんせー! あたしの手、どうなっちゃったの!?」
 あたしが泣きそうになっているというのに、先生は憎たらしいほど落ちついていた。
「これが俺の開発した機械化アームだ。すばらしいだろう。外装として取りつけたグローブが身体の構造を組み替え、機械そのものと化す。それによって人間には不可能なパワーを出したり、疲れ知らずで活動が出来るようになるんだ」
 得意げにいう先生は、あたしの左手の二の腕付近を掴んだ。グローブは手の先だけでなく、肩の近くまで覆っているので、そこも当然グローブが覆っている。掴まれているはずなのに感触がしないというのは奇妙で怖いことだった。
「ちなみに機械だから当然……」
 先生があたしの腕を両手で掴んで、なにやら複雑な動きをした。
 すると、信じられないことに。

 あたしの肘から先が、取り外された。

 ありえないことが起きて、あたしは完全にパニックに陥っていた。
「あっ!? えっ!? あぁっ!?」
 先生の持っているあたしの肘から先の手が、あたしの内心を表すように暴れていた。
「おいっ、あぶなっ! 暴れるなって!」
「そ、そんなこといったって! あたしの手がっ! せんせ、返して!」
「いま戻すから! 動くな! 戻せないだろうが!」
 強い命令に、あたしは思わず身体を硬直させてしまう。先生にそんな風に怒鳴られたのは初めてのことだった。
 あたしが硬直している間に、先生はあたしの手を元のようにつなぎ目を合わせ、そして再び手が元のように動くようになった。相変わらず感触はないから奇妙な状態ではあったけど。とにかく、手が戻ったということに安心して、深々と溜息を吐いた。
「はーっ……びっくりしたぁ……」
「肝を冷やしたのはこっちだ。あの状態のお前の手は機械なんだ。重機となんら変わりない。下手したら俺の身体を握り潰してたかもしれないんだぞ」
 じろりと先生に睨まれて、思わず身を竦めてしまう――けど、悪いのはあたしじゃないと思う。
「せんせーが説明不足なのがよくないんだと思う……」
 恨みを込めた視線を向けると、先生にも一応自覚はあるのか、気まずげに唸った。
「む……まあ、確かにいきなり取り外すのはやり過ぎだったな」
 先生はあたしに背を向けて、なにやら机の上をごそごそと漁り始める。
「もっとちゃんと片付けないと、モテないよ。せんせー?」
「うるさい。大きなお世話だ。……おっ、あったあった。試すなら先にこっちだったな」
「試す? こっち?」
 なんか嫌な予感。
 あたしの方を再び向いた先生の手には、なにやら単純な形状のスイッチがあって。

 それを先生の指がぽちりと押し込むと同時に、あたしの腕はあたしのものじゃなくなった。

つづく
[ 2019/03/23 21:09 ] 小説・短編 機械化外装 | TB(-) | CM(0)

機械化外装 1


 それは、極めて奇妙なものだった。
「なんというか……すごい、重そう」
 正直に思った感想をそのまま述べたのだけど、先生はものすごく不満そうな顔をした。
「これを見て、最初にいう感想がそれなの?」
 割とマジで機嫌を損ねてしまったらしく、あたしは慌てて言いつくろう。
「ご、ごめんなさい。でもさ、先生が正直に感想をいえって言ったんじゃん」
 そもそも、あたしみたいな不真面目な学生に「新しい発明品の感想を聞きたい」なんて言ったのは先生の方だ。
 まあ、うっかり締め切りをぶっちしてしまったレポートの補填で「なんでもするから」って言ったのはあたしの方ではあるんだけど。
 先生はなんとも不満そうな顔のまま、それを手に取った。軽く持ち上げて見せる。
「そうだけどさぁ……確かに見た目は重そうかもだけど、実はいうほどじゃないんだぞ? 持ってみろよ」
 差し出されたそれを、あたしは渋々受け取る。確かに、言うほどは重くなかったけど。
「これ、なにに使うの?」
「その形状からわからないか?」
「……グローブ、っぽく見える」
 あたしはその想像が正しかったことを、その中身が空洞であることで知った。

 先生が見せてくれた「それ」は――いかにも重そうな、機械で出来た腕だった。

「こういうのなんだっけ? えーと、パワードスーツ? っていうんだっけ?」
「お前、ほんとに一切講義を聴いてないんだな……俺が何の開発者だと思ってるんだ……」
 あたしの言葉を聞いた先生は、呆れた様子で深々と溜息を吐いていた。やばい。講義の時ほぼ寝てるのがバレちゃう。
 先生はすごい呆れながらも、教えてくれた。
「これはな、人間の身体の動きを機械が補助する、なんて前時代的な発明じゃないんだ。人間の身体を一時的に機械に置き換える――いわば機械化アームなんだよ」
 ドヤ顔で語る先生には悪いけど、あたしには全くこれっぽっちもぴんと来なかった。
「……はあ」
 とりあえずなんか凄いんだろうなという程度の反応に、先生は目を剥いていた。
「なんだその反応!? すごいことなんだぞ!?」
「そう言われても……」
「わかった! 特別に体験させてやる! こっちに立て!」
 どうやらあたしの反応は先生にとって非常に屈辱的だったようで、すごい形相でそう言ってきた。目がいっちゃってて怖かったけど、仕方なく従って先生の前に立つ。
 先生は機械で出来た腕の、切断面に当たるところをあたしに示す。
「まずは左手だ。この穴に腕を入れてみろ。服の袖は肩まで捲れ」
「はーい……」
 恐る恐る、手を差し込んでみた。思ったより中は広く感じる。
 機械のひんやりとした感触に顔をしかめつつ、あたしは長手袋を嵌めるように、その機械の腕を身に付けた。見た目ほどは重くないけど、左腕だけが二回りほども大きくなってしまったようで、着ぐるみみたいな不格好さがある。
「ださい……」
「なっ……!」
 思わず呟くと、先生が息を詰まらせて咳き込んだ。
 わりと言われたくないことだったみたいだ。
「おまっ、おまえなっ! まだスイッチ入れてないんだよ! 黙っとけ!」
 これ以上何かいうと本気で単位を出してくれなくなりそうだったので、口をつぐむ。
(それにしても……スイッチ?)
 メカメカしい外見から何か機能があるんじゃないかとは思っていたけど、どんな機能があるんだろうか。怪我とかしたらどうしてくれるんだろう。
 そんな風に不安に思っていると、先生がスイッチを入れたのか、左腕に身に付けている機械の腕が動き始めた。
 それと同時に、機械の腕の中に入れているあたし自身の腕が、絞られるみたいにぎゅぅっと全体に圧迫される。
「いたっ……くはないけど……なんなのこれ! なんか変! せ、せんせー!」
「黙ってろ。いま組み替えてるところだ」
「組み替えてるってどういう……え?」
 不意に左腕の圧迫感が消えた。思わず自分の左手を見ると、そこにはいつものあたしの腕の細さになった左手があった。

 ただし、その腕は――機械で形作られたものになっていた。

つづく
[ 2019/03/19 11:52 ] 小説・短編 機械化外装 | TB(-) | CM(0)

液体ゴムチョコレート配合


『ハッピーバレンタイン! ありさ!』

 手の中に収まる程度の大きさの箱の中から、突如陽気な声が響いてきて、思わず私は箱を放り出していた。
 箱は放物線を描いて飛んでいき、少し離れた位置にあったソファに落下する。
『むぐっ! 何するのよ、ありさー』
 不満そうなことねの声が響く。
 しかし勘弁して欲しい。家に帰ってきて、机の上においてあった小さな箱を何気なく手にしたら、中から人間の声が響いたのだから。悲鳴をあげなかった自分を褒めてあげたいくらいだ。
 いくら私が多少非現実的な現象になれていると言っても、不意打ちに対応するのには限度がある。
 私は激しく高鳴る心臓を抑えつつ、彼女に応えた。
「何するの、じゃないわよ、ことね。……何やってるの?」
『なにって……バレンタイン?』
 私が放り出した箱がカタカタと揺れている。
 どうやらことねがその中にいることは間違いないみたいだ。
「またそういうことして……あのね、ことね。いくらあなたがゴムになれるからって、バレンタインのプレゼントは私、とか今時流行んないわよ」
『えー。だめ?』
 そうことねが言い、いかにもバレンタインのチョコを包んでいるような箱が、内側から盛り上がった。そして、箱が破れて、中からどろりとした茶色い液体が零れ出す。
(ん……? 茶色?)
 ことねは呪いの影響で全身をゴム化できる能力を持っているのだけど、その色は基本的に黒一色だ。黒寄りとはいえ、茶色になっているのは初めて目にする。
(チョコレートらしくはあるけど……まさかそれで……?)
 箱から滲み出してきたことねの体らしき不思議なゴムの液体は、重力を無視して立ち上がり、その形を人間の体へと変えていく。
 気づけば、全裸のことねがそこに立っていた。のっぺりとした質感はいつものゴム人間化していることねの姿らしかったのだけど、いまは少し印象が違う。
 カカオ成分多めのチョコレートのような、そんな黒っぽくも茶色い、チョコの色をしていたのだ。
「ことね……あなた……それって」
『ふふふー。そう! チョコと混ざってみたの! そしたら、こんな感じになれたってわけ!』
 得意げにいう彼女に、私は頭が痛くなるのを感じた。
「あなたね……そんなことして、もし元に戻れなくなったらどうしてたの?」
『なんとなく、大丈夫かなーって。一応、最初は指の先だけ混ぜたりして問題ないことを確認してから、全身で混ざったよ?』
 いくら液体ゴム化できるからといって、その状態で他の液体と混ざってみるなんて、自殺行為にもほどがある。
 幸い上手く成立しているからいいものの、混ざってしまったことで何か不都合が生じたらどうするつもりだったんだろうか。
 私の心配など意に介さず、ことねは私の傍に近づいてきて、腕を私の前に示した。
『まあまあそんなに怒らないで。せっかくチョコを混ぜ込んだんだから、私を食べてよ』
「……あなたを食べるのはごめんなんだけど」
 ゴム化しているとはいえ、これはカニバリズムに近いものがあるのではないだろうか。
 私はそう思いつつ、せっかく用意してくれたことねの行為を無碍にするのもはばかられ、恐る恐る彼女の腕へと舌を寄せていった。
 舌を突き出し、ぺろりと彼女の体を舐める。
 それだけでも十分倒錯的な感覚だったけど、彼女の身体からはチョコレートの味が感じられ、より奇妙な感覚だった。
 さらに舐めたところからどろりと彼女の体が溶け、私の舌に溶けたチョコのようなものが移ってきた。彼女の体を舐め取ったような、そんな変な感覚だ。舌を引っ込めると、そのことねの身体から分離した液体が口の中に入ってくる。
『美味しい?』
 期待を込めた視線で私を見つめることねには悪いけど。
「……ゴム臭い」
 それが率直な感想だった。確かにチョコレートの味はするけど、それと同時にことね自身のゴムの体の味が想像以上に主張している。
 残念ながらお世辞にも美味しいとはいえなかった。
『えーっ! そんなぁ……そんなに気になる?』
「悪いけど……さすがに食品とゴムの味や臭いが混ざるのは、ちょっと」
 不味いというより、純粋に気持ち悪い。
 濁した意図は伝わったのか、ことねはがっくりと肩を落とした。
『いいアイデアだと思ったんだけどなぁ……私を食べて♡作戦』
「というか、大丈夫なのこれ……私の口の中にあるのは、チョコレートだけ、なのよね?」
 ゴムの臭いや味が移ってしまって、いまいち確証が持てない。
 私の不安に対し、ことねは笑顔を浮かべる。
『うん。ありさが口に入れてるのはチョコレートだけだから食べても大丈夫だよ』
「……いや、ごめん。これはちょっと飲み込めない」
 ゴムの味と臭いが染みついていて、飲み込むのを体が拒否している。私はティッシュを数枚取って、そこにチョコレートを吐き出した。
『えー、もったいない……』
「申し訳ないけど、無理なものは無理よ。私はあなたと違って自分の体がゴムってわけじゃないんだから。あなたは自分自身がゴムだから味とか臭いは平気でしょうけど」
『しょうがないなぁ……あ。でもいいこと思いついた!』
 ゴムチョコ人間となっていることねは、非常に楽しそうな様子で、そう声を張り上げる。
 私は彼女に背を押され、浴室へと移動した。
 浴室に移動したことねは、空の浴槽の中に入ると、その体を液体へと溶かした。チョコレートと混じった彼女の体は浴槽を一杯に満たす。
『名付けてことねチョコ風呂! ほらありさ! 入ってみて入ってみて!』
「チョコ風呂……どっかで本当にやってるとは聞いたことあるけど……」
 まさかこんな形で経験することになろうとは。
 ことねが用意したチョコレートが無駄にならないのなら、と私は入ってみることにした。
 服を脱ぎ、裸になって浴室に入る。そして、恐る恐ることねチョコが満たされた浴槽へと、脚を差し入れていった。
「ん……っ、すっごい、どろどろしてる……」
 泥の中に脚を入れているみたいに、凄い抵抗があった。
 実際のチョコ風呂は、もっと水に近いさらさらとしたものが一般的らしいけど、ことねが自由に調節出来るためか、本当にチョコを湯煎で溶かしたような、絶妙な粘度だった。
 なんというか、チョコレートフォンデュの具材になったような気分だ。
『んんぅ……っ、ありさが私の中に入ってくる……っ』
「……言い方」
 私と彼女はそういう関係にあるのだから、いまさらかもしれないけど、卑猥な言い方に想わず溜息が出た。
 普通のお風呂に入るように、肩まで『ことねチョコゴム』に浸かった後、水面より上に腕を上げてみる。
 どろりとしたチョコレートの液体が掌によって掬い上げられ、指と指の間をどろりとしたものがこぼれ落ちていく。私の手はチョコレートにコーティングされたように、チョコで覆われていた。普通のチョコレートではここまで綺麗にコーティングされることはないだろうから、おそらく混ざっていることねがなにかしているのだろう。
 なんというか、不思議な感覚だ。
『ふふふ……凄い見た目はいいよ。えっちくて』
「……そうかしら」
 ことねの言葉に、私は曖昧に応じる。普通のお湯より抵抗があって、多少変な気分になるのは事実だけど、これなら別にチョコレートでなくてもいい気がする。それこそ、液体ゴム化したことね風呂の方が気持ちいいのではないだろうか。
『あっ、いいこと思いついた!』
 そんなことを考えていると、ことねがそう叫ぶ。
 私に覆い被さるように、半分溶けたことねの体が構成された。私の頬にそのチョコレートそのものの手で触れてくる。
『ありさが舐められないなら……私がなめちゃおっと。チョコレートの成分だけ、ありさの体の表面に残して……と! 上手くいった!』
 そうことねが呟くと、私の体が急に動かせなくなった。視線だけ体に向けてみると、私の体が茶色いチョコレートで覆われ、コーティングされていた。
 それでも、力を込めて動こうとすると、チョコの表面に亀裂が走った。
 固められたとはいえ、所詮はチョコの強度のようだ。ことねの影響があれば別なのだけど、ただのチョコレートに戻っている。
 私の体温の影響もあって、柔らかくなりつつあり、壊れやすくなっていた。
『あっ、ありさ動いちゃダメ!』
「ご、ごめん」
 思わず謝りつつ、体を動かさないように注意する。
 黒いゴム人間化したことねが、私の体に覆い被さり、遠慮無く私の身体を、正確には私の身体を覆うチョコを舐め始めた。
 まずはお腹。チョコ越しにことねの舌が動くのがわかる。少しむず痒い。
「ん……」
『くすぐったい?』
「そう、ね……少し、だけど」
『んふふ。ありさ、可愛い』
 ことねがそう呟きつつ、舐める箇所を徐々に移動していき、私の胸へと口を移動させた。乳首を覆うチョコレートを、ことねの舌が舐め取る。
 思わず身体を動かしてしまわないように、注意しなければならなかった。
『んー、ありさチョコ美味しい♡ そういえば、おっぱいが出せたら、混ざってホワイトチョコレートになったりして?』
「出せないからね?」
『知ってるよぅ』
 ことねはぷぅ、と頬を膨らませた。冗談のつもりだったらしい。
 一瞬、ことねの能力でそういうことも出来るようになったのかと思って少し焦ったのは内緒にしておこう。
 彼女のゴム化の能力は、触れている対象にもある程度移すことが出来る。それのおかげで大量浣腸されたり、太く大きなものを挿入されたりしても身体が傷つくことはなく、楽しめるのだけど、自分の身体の形が人間の限界を超えて変えられるというのはなかなか衝撃的なことだ。
 妊娠もしないのに母乳を出せるようになるとか、機能的な面も変えられるようになったらますます衝撃は大きくなるだろうから、もしことねがそういうことを出来るようになったらあらかじめ話しておいて欲しいものだ。
 いまのところはそういうことはないようだから安心したけど。
 私がそんなことを考えている間にも、ことねは一心不乱に私の身体を覆うチョコをなめ折続け、気づけば私の両胸のチョコのコーティングが完全に舐め取られていた。
 他の身体はチョコに覆われているのに、そこだけ裸の胸が露出しているためか、あるいはことねが丹念に舐めて刺激を与えたためか、胸の感覚は物凄く敏感になっているような気がした。
「こ、ことね……は、恥ずかしいんだけど……」
 身体のラインがはっきり出るコーティング状態も恥ずかしかったけど、胸だけ露出しているいまの状態はもっと恥ずかしい。周りがチョコの濃い色で、白い肌の乳房が目立つのも一因だろう。
 顔が熱くなるのを感じる私に対し、ことねは笑顔を浮かべていた。
『いいじゃん。えっちくて素敵だよ。次はこっち、かな』
 そういってことねが次に狙いを定めたのは私の股間だった。そこも当然、チョコがコーティングしている。ことねと一緒に暮らし、プレイをするようになってから、毎日しっかり剃って綺麗にしていることもあって、チョコがぴっちり割れ目に張り付き、浮かび上がらせていた。
 それだけでも恥ずかしかったのに、ことねはそこに触れてにやりと笑う。
『ありさ……おっぱいを舐められるだけでずいぶん気持ちよくなっちゃったみたいだね? ここ、凄く熱くなって、柔らかくなってるよ』
 ほら、とばかりにことねが指でその場所を押すと、あっさりとチョコは崩れて、中から私の分泌した透明な液が垂れ落ちた。
 あとから冷静に考えれば、感じたとか感じてないとか関係なく、その時のそれは普通のチョコなんだから身体に触れていれば溶けるのは当たり前だった。
 けれどその時の私は冷静ではなく、死ぬほど恥ずかしい思いをさせられてしまった。
 そんな私の身体を、再び液体ゴム化したことねが包み込む。
『だいぶ溶けてきてるみたいだから……いったん、もう一度私の身体に取り込んで、と』
 体中をことねが這い回る感覚が襲う。無数の手で撫でられているような感覚がするのは、気のせいではなく、ことねがいじわるでやっているのだろう。
 その撫でられる感覚だけで、神経が高ぶった私は絶頂させられそうになる。
 全身に与えられる快感に翻弄されていると、ことねが私から離れた。私の身体は再びチョコによって覆われていた。ただ、さっき舐め取った胸の部分はあえて覆わなかったのか、白い乳房がむき出しに、チョコに絞り出されている。
 乳房に直接空気が当たる感触に呻いたけど、すぐに妙な感覚はそこだけではないことにも気づく。
「んっ……? なんか、へんな、気が……」
『あ、わかった? 見せてあげる』
 そういうことねがお風呂場に据え付けてある大きな鏡を、一瞬で器用に取り外し、私の前に持ってきた。私はそれによって客観的にチョコに包まれた自分の身体を見ることが出来て――唖然とした。
 私の股間、膣が、大きく開かされていた。どうりで妙な感覚がするはずだった。私のそこは、まるで透明な棒を入れられているかのように、開かれた状態でチョコによってコーティングされていた。チョコだけの力で開いたまま固定出来るわけがないから、おそらくことねの身体の一部も混ざっているのだろうけど、私が死ぬほど恥ずかしいのには違いなかった。
『いまは準備がないけど、こうしてあけた穴にクリームとか入れて舐めたら美味しそうだよね。今日はありさの汁だけで我慢しよう』
「し、汁って……」
『それじゃあ、いただきまーす』
 私を楽しげにからかうことねは、その顔を私の股間にひっつけて、舌を伸ばして舐め始めた。
「んぁっ、ちょ、ことねぇ……っ」
 ことねは舌をゴム化させて私の奥の奥まで責めてくる。その過程でわかったけど、どうやらチョコのコーティングは子宮の直前まできっちりしているみたいだった。這い回る舌の感触でわかった。
 舌が身体の中で這い回る感覚に、思わず膣を締めようとすると、コーティングされているチョコに反発され、それによって太さ、広げられているということを実感してしまう。
 そこをさらにことねの舌が這い回るものだから、なんとも言えない快感が私を絶頂へと導いていく。
 やがてことねの舌で股間を広げているチョコが舐め取られていき、徐々に元の形に戻ろうとする過程で、ことねが差し入れている舌を締め付けてしまう。
「……っ、あっ、ん、くあぁっ!」
 絶頂に至り、全身が痙攣し、身体を覆うチョコがひび割れて砕ける。
 チョコに閉じ込められて蒸れていたのか、解放された私は汗だくで、溶けかけたチョコレートで全身が汚れていた。
『ありさ、気持ちよかった?』
 脱力した私の身体を包み込みながら、そう問いかけてくることね。
 私は視線を逸らしつつ、頷くのだった。

 とんでもないバレンタインデーのチョコレートをもらってしまったものだ。


液体ゴムチョコレート配合 おわり

2018年、ご愛読ありがとうございました!

来年、2019年はより多くの執筆活動に尽力しますよ~^w^
各ジャンルで途中になってる作品は多いので……ひとつひとつがんばります!

それでは皆様、良いお年を!
また来年お会いしましょう!
[ 2018/12/31 23:38 ] 連絡 | TB(-) | CM(1)

機械化メイドとサイボーグ奥様の出産プレイ おわり

 色々倒錯した状況になった私たち。
 私の体を動かすミルキーが分娩台に座り、その足を大きく広げて出産の体勢に入った。
 ベルトを用いて両足を分娩台に固定する。本来はそこまではしないけど、両腕も後ろに回した状態で固定した。私たちの場合、自由を奪うのであれば両手足を取り外してしまうのが早いのだけど、そこはまあ雰囲気というものもある。
『ふー……結構緊張するわね……』
 ミルキーがそう呟くのが聞こえてきた。いろんな体を経験しているミルキーだけど、私の体全部を使うということはいままでなかった。
 きっと純粋に私の体が平気かどうかというところから、気にしてくれているのだと思う。作り物の体なら直せば済むけど、私の体は治らなければ腐り落ちるだけだ。
 まあ、そうなったらその部分を機械化してしまえばいいだけなのだけど、本来の持ち主の私と違ってミルキーにとっては借り物になるわけだから、緊張するのもわかる。
(全部任せる……とは言っているけど、それとこれとは違うもんねぇ)
 私たちはお互いにお互いの体を自由にしていい契約を結んでいる。私も時々ミルキーの体を自分好みに弄らせてもらっているし、ミルキーも気にしなくていいのだけど。
 そんなことを考えている間に、どうやら私の体は出産体勢に入ったようだった。
『ん……っ、くぅ……っ!』
 自分の体とは思えない艶っぽい声を出して、ミルキーが悶える。自然と体が動いてしまうのか、ギシギシとベルトが体に食い込み、なかなか痛々しい光景になっている。
 あまりに体が暴れるので、出産補助プログラムが動かすミルキーの体が、私の胸のところに×の字型に太いベルトを追加して、背もたれに括り付けた。
 唯一自由がきく頭を振り、ミルキーが悶え苦しんでいた。
 それと同時に、私の入っている人工子宮が蠢き始める。周囲から圧力を感じ、まるで全身を絞り上げられているかのようだった。
 本当の胎児がどう感じているかは定かではないのだけど、そのときの私は全身が締め上げられる感覚がものすごく気持ちよかった。これは恐らく胎児の人形から受ける感覚が快感に変えられているためだろう。
 まるで全身が性感帯になってしまったかのような、激しい快感が私に流れ込んでくる。
(うわ……っ、これ……すごい……っ)
 思わず陶然としてしまう私に対し、出産する側のミルキーはあえて激痛をそのまま味わっているようで、苦しげに顔を歪めて悶えている。側に立つミルキーの体は無表情で私の体で暴れるミルキーをさらに厳重に拘束していた。
 舌を噛まないようにか、大きなボールギャグか噛まされ、目はベルトに覆われ、それらを上から押さえつけるように頭部全体を固定するベルトが分娩台に縛り付けられる。
 ミルキーが暴れる度に分娩台が軋んで嫌な音を立てるけど、拘束自体はびくともしなかった。
 そうしているうちに、出産は次の段階に進む。
 子宮に閉じ込められていた私の体が、頭部から細い管状の空間に押し込まれ始めたのだ。
 細い管を通ろうとして、無理矢理頭がねじ込まれていく。
 赤ん坊の頭蓋骨は柔らかく、いくつかのパーツに分かれてその細い道を通るようになっているらしいけど、この胎児を模した身体はどうなっているのだろうか。
 いずれにせよ、私は限界を超えた締め付けを頭部に受けている感覚で、もう見えている光景に意識を飛ばす余裕がなかった。
『んぐぅうううううう!!!!』
 私の声をしたミルキーがすごいうめき声を上げているのか、ダイレクトに身体に伝わってくる。ボールギャグを噛んだ上でこの声量は相当大きな声をあげているということだ。
 出産の苦しみは相当なものだと、知識として知ってはいたけど、あのミルキーがここまで叫ばなければならないほどとは思っても見なかった。
 頭を押しつぶされる感覚を覚えつつ、いまの私の身体はさらに産道を移動していく。
 よくこんな狭い道を通って赤ん坊は生まれてくるなぁ、と思えてしまうほど狭い道をどんどん奥へと――実際には表へとなんだけど――進んで行く。
 粘土になった身体がチューブに押し込められて、排出されているかのような感覚だった。全身に与えられるそれが快感に変わっているのだから、私自身がおかしくなってしまいそうなくらい、気持ちよかった。
 一方のミルキーはわずかに動く身体をびくんびくんと痙攣させ、まるで死に際の痙攣みたいな動きをしていた。カットできるから大丈夫と本人は言っていたけど、本当に大丈夫なんだろうか。
 そうこうしている間に、私の身体の割れ目が内側から押し広げられ、胎児の頭部がのぞき始める。私の身体は割り裂かれるような激痛を味わいつつも、ミルキーとの普段のプレイで開発されていることもあってか、はしたないほどに愛液を滴り落としていた。
 出産しながら濡らすとか、かなり恥ずかしい。ここに第三者がいなくて良かった。
 さらに出産プレイは進み、私の頭が膣から飛び出した。そうなるとあとはもう流れで、胎児になった私はずるりと私の身体から産み落とされる。
 膣道の一部が裂けてしまったのか、血らしきものや、あふれた愛液、こぼれてしまった尿などで汚れていたけど、ミルキーの身体を動かすプログラムが手早く綺麗にしてくれた。
 清潔なタオルに包まれると、お風呂に入っているような、暖かくて心地よい気分に浸ることができた。
 私の身体に入ったミルキーはといえば、時折細かく痙攣しているだけで、どうなっているのかわからない。セーフティもあるはずだし、大丈夫だとは思うのだけど。
 そういえば、私は胎児の状態でしゃべれないし、私の身体を使うミルキーも口枷などがあるので喋れない。このままミルキーが動けなかったら、私たちはどうなってしまうのだろうか。
 一瞬不安になった私だけど、不意に私を抱いて立っていたミルキーの身体が、不意に動き出したことでその不安は払拭された。
『フゥ……ソラミ、楽しめましたカ?』
 いつものミルキーの調子に戻っている。私は上手く動かせない胎児の身体をなんとか動かし、頷いてみせた。
『フフフ……時間が来れば自動的に戻るようにしておいて良かったデス。そうしてなければ、回復まで相当な時間を要するところデシタ』
 そういってミルキーは私を、私の身体のお腹の上に置き、私の身体の拘束を解き始めた。自分の身体が解放されていくのをお腹から見るというのは、不思議な感じだった。
 上半身の拘束がすべてほどかれ、自由を取り戻した私の身体。
 けれどその私の身体は気絶しているかのように、白目を剥いたまま動かなかった。
『かなり無茶しましたカラ……すぐに戻すのは危険デス。しばらくそのままでお待ちクダサイ』
 それはそうだと思う。弛緩剤とか、色々使ってはいたけれど、本来出産の準備も何も出来ていなかった身体で、赤子を出産するという暴挙を行ったのだから。
『ちょっとやりたいことがあるノデ……完全に感覚を切りマスネ。眠っていてクダサイ』
 やりたいことってなんなのだろう。
 私は問いかけたかったけど、ミルキーが合図を出して私が感じる感覚を完全にシャットダウンしてしまったため、何もわからなくなってしまった。暗闇の中でじっと考え事をしていても仕方ないし、言われた通りに眠ることにする。
(ミルキーのやりたいこと……ねぇ。とんでもないことじゃなきゃいいけど……)
 そんな風に思いつつ、ミルキーがやりたいと思ったことでとんでもないことじゃなかったことはないので、半ばあきらめて受け入れることにしている。
 そして、私はひとときの眠りについた。


 目を覚ました時、私は自分の身体に意識が戻っていた。院内着だけを着せられている感覚がある。下着は身につけていないようだ。
 すぐ側にミルキーが立っている。その頭をかくんと傾げ、私が目覚めたのを認識したようだった。
『おはようゴザイマス。ソラミ奥様』
「おはようミルキー。今度はいったい、なにを……?」
 私はベッドに寝かされていた。身体を起こそうとして、いつもよりなんだか身体が重い気がする。身体が、というか、胸が、なんだけど。
 私が半身を起こすのをミルキーが介添えしてくれた。身体を起こした私は、自分の身体を見下ろす。見下ろそうとして、大きな双丘に遮られてしまった。
 元々そう小さな方ではない巨乳だったけど、いまは明らかにいままでの巨乳を超えた大きさになっているのがわかった。
(子供を産んで、母乳が出るようになると大きくなるとはいうけれど……それの再現ってこと? それにしては、なんだか重すぎるような)
『お気づきになられマシタカ』
 そんなことをいうミルキー。私は呆れつつ、応えた。
「気づかないわけないじゃない……やりたいことって、おっぱいを大きくしたってこと? 母乳が出るように改造されてそう……ね……?」
 言いながらその乳房を手で掴んでみた私は、その異様な感覚に思わず言葉を詰まらせ、肩を震わせてしまった。
 それはなんというか、奇妙な感覚だった。柔らかいはずの乳房が、いや、確かに柔らかくはあるのだけど、明らかにおかしな感触が胸の内にある。
 まるで、堅い半球状の何かが、胸の中に埋め込まれているような。
 その正体を探ろうとした私は直感でとんでもないことに気づいてしまった。ベッドの脇に立つミルキーを見上げる。
「……ちょっと待って。ミルキー。聞いてもいいかな」
『ナンナリト』
「あなた、いま頭の中に自分の脳は入ってる?」
 私のお腹は引っ込んだままだった。つまり、私のお腹の中にはいまミルキーの脳はないし、胎児もいない。
 けれど、ミルキーがさっき見せた頭の動きは、そこに脳が入っている動きじゃなかった。ささやかなものだけど、そこががらんどうな時と、脳という中身が詰まっているときでは動きが違うのだ。
 私のお腹にも、ミルキーの身体の頭にも、ミルキーの脳は入っていない。
 じゃあ、どこに行ってしまったのか?
 普段、あえて表情を動かしていないミルキーの口角が吊り上げられた。そして自分の頭部を指先で指し示す。
『さすがはソラミ奥様。ソウ、いま私のココに私の脳は入ってオリマセン』
「じゃあ、どこに……」
 言いながら、私はその答えを知っていた。
 私は両手で自分の胸を掴んでいた。
 ミルキーの眼球が強い光を放つ。その特殊な光は私の胸を照らし――その中に半球状のカプセルと、その二つのカプセルを繋いでいる管のようなものの陰を照らし出した。
『ご明察通りデス。私の脳は半分に分割され――ソラミ奥様の両乳房に半分ずつ収まっているのデス』
 とんでもないこと、の想定を軽く上回ってきた。
 ミルキーの発想のとんでもっぷりに、言葉が出ない。
『ご安心クダサイ。左脳と右脳の距離が少し離れただけデス』
 だけという言葉の意味を調べて欲しい。私は相変わらずとんでもないことをしでかしてくれたパートナーに、深々とため息を吐かざるを得ない。確かに私とミルキーはお互いの身体を自由にしていい契約を結んでいるけども、まさか乳房が脳を収納する袋のように使われるとは思ってもみなかった。
 自分の脳を分割するなんて悪魔的発想、とてもじゃないけど私には思いつかない。
「……ほんとうに大丈夫なの?」
『手術は上手くいきマシタ』
「そう……なら、いいのだけど」
 いまさら言っても無駄なことだとわかっている。転倒や事故に気をつけなければいけないのは、いままでと変わりないのだし、私はミルキーのとんでもない行動を受け入れることにした。
 私が感触を確かめるために、乳房を揉んでいると、不意に手のひらに暖かな感触が生じた。見下ろしてみると、着せられていた薄い院内着にシミが出来ている。
「……もしかして、母乳が出るようにも改造した?」
『はい。胎児に授乳は必要でしょう?』
 どうやら本気で出産したことにしたいようだった。
 子育てなどしたことがない私は、何をどうすればいいのかわからないけど、ミルキーがいてくれるなら大丈夫だろう。そもそも本物の胎児ってわけじゃないし。
 ミルキーがさっき私が――正確には私の身体を用いたミルキーが――産んだ、胎児を模した人形を連れてくる。産み落とした直後の胎児ではなく、ある程度落ち着いた姿になっていた。
 院内着を開けさせられ、二回りは大きくなった乳房を露わにし、その先端にある乳首に人形を吸い付かせる。人形はそれを感知して、口を動かして母乳を吸い始めた。
 ビリビリとした快感が走り、思わずあえぎ声が出てしまう。実際の授乳と違い、遙かに快感のレベルが高い。人前で授乳作業をするときは気をつけなければならないだろう。
『フフフ……ソラミ奥様に似せて作った機械人形……ワタシとアナタの子供っぽいデスネ』
 ミルキーはそう言って微笑みつつ、授乳する私を見守ってくれていた。
 確かに、そう考えるとこの子は私たちの子といえるのかもしれない。
 力強く吸い付いてくるその子の行動に肉体的な激しい快感を覚えつつ、胸中にもほんのりと母性的な快感が宿るのを感じていた。

 これからしばらくは、子供を産んだばかりの母親と、生まれたばかりの子供と、その世話をするメイドとしての、三人でのプレイが捗りそうだ。


~機械化メイドと奥様の出産プレイ 終わり~

ラバー猫型圧縮形態

 これは少し未来の話。
 圧縮ラバースーツを用いた移動が、すっかり一般にまで浸透した頃のお話。

 一台のドローンが圧縮ラバースーツを研究している建物の中に、開かれた窓から入る。
 そのドローンは小さな小包サイズの箱を抱えていた。予め指定されていた場所にその箱を置くと、ドローンはそのまま外へと飛び出していく。
 研究室に取り残された一個の箱。箱は金属製で、なにやら仕掛けがあるようだった。その箱はしばらく沈黙していたが、不意に動き出し、自動的に蓋が開かれる。

 開かれた箱の中は、真っ黒なラバーで満ちていた。

 みっちりと一部の隙間もなく箱がラバーで埋まっている。そのラバーは箱が開いたことを感知してか、突然膨らみ始めた。
 まるで風船が膨らんでいく時のように、ラバーが張り詰めながら箱の外まで溢れ出す。それは瞬く間に人間大の大きさまで膨らみ、気付けば箱を起点としてひとりの女性の人型が立ち上がっていた。
 その人型は最初厚みがなかったが、すぐに膨らみ、人間の形へとさらに近付く。人間を黒い型で取ったようなラバーの人形がそこに現れていた。
 ラバーで出来た人型は、本物の人間と同じように動き出し、両手を首の後に回す。そこにあったボタンを押すと、空気の抜けるような音と共に、頭部を覆っていたラバーが消えた。
 正確には消えたのでは無く、首に巻き付いているチョーカーの中に収納されたのだ。頭部を覆っていた全頭マスクが消え、長い髪がばさりと広がる。まるで最初からそうであったかのように、自然な形で髪が広がった。
「ふぅ。全く休日出勤なんて……伊澄ったら、勝手なんだから……」
 その人型――この研究所で働く綾子は、物憂げに溜息を吐いた。
 人体圧縮ラバースーツを研究している彼女は、そのラバースーツの開発者である伊澄と浅からぬ仲であり、協力して日々新しいラバースーツの研究を行っている。
 いま綾子が行った、圧縮されて箱に詰められてドローンに目的地まで運ばれるという行為も、現在の世の中ではポピュラーな移動手段のひとつだった。
 それはすべて圧縮ラバースーツを開発した彼女たちの功績の結果であり、経済効果は果てしないものとなっている。
 ゆえに伊澄も綾子も、すでに一生遊んで暮らせるだけの資産を有しているのだが、彼女たちはラバースーツの研究をいまだに続けている。
 正直、綾子としてはいい加減家庭を持って落ち着いてもいいと思っているのだが、伊澄の方が研究中毒であるために、彼女も付き合っている形だ。
 この日も本来は休日なのだが、伊澄が新しく開発したラバースーツの実験をしたいというので、仕方なく出勤したわけである。
(まったく……研究熱心なのはもう諦めたけど、休日返上まではしなくていいと思うんだけどね……今日はゆっくりファンシーショップでも見に行こうって約束だったのに)
 付き合いの長い伊澄にさえ「意外」と言われるのだが、綾子はファンシーなグッズが大好きである。彼女の自室はぬいぐるみなどの可愛いもので埋め尽くされていた。
 たまの休日にそういったぬいぐるみなどのグッズを買い集めるのは、綾子の数少ない楽しみであった。
 その約束を反故にされたのだから綾子としては伊澄に言いたいことが多々あったのだが、それでも伊澄にどうしてもと頼まれると断ることが出来ない程度には、彼女は伊澄に甘かった。
 綾子はここに移動するために着ていたラバースーツを脱ぎながら、研究所の奥に呼びかける。
「伊澄ー? 仕方ないから来たわよー」
 ここは研究所の中で、伊澄と綾子に割り当てられた区画である。
 そのため、ラバースーツを脱いだ全裸のまま歩き回っても問題ない場所だった。
 新しいラバースーツを試す以上、どうせ全裸にならないといけないと考えた綾子は、全裸のまま、伊澄がいるはずの研究室へと近付いた。
「新型ラバースーツの実験するんでしょ? さっさと済ませて、買い物に――」
 そのとき、綾子はふと足下に気配を感じた。
(……なにかしら? なにかが脚に……)
 足下で動く何かといえば、猫や犬などの小動物が考えられた。
 可愛いもの好きの綾子は猫カフェなどにもよく訪れる。その時の感覚を思い出し、足下を見た綾子は、自分の脚に擦りついている者の存在に驚く。
「ね、猫……?」
 見た目は黒猫のように見えた。四つん這いでトコトコと歩き、綾子の脚に身体をすりつけている。ただし、その感触は普通の猫のそれと全く違った。
 しかし、綾子にとっては、猫の毛のそれより遥かに慣れ親しんだものだ。
「ラバーで出来た、猫……?」
 そう綾子が呟いた、次の瞬間。

 突如、その猫が大きな口を開け、綾子の爪先に吸い付いた。

 口の中までラバーで出来ているのか、ラバーがぺたりと張り付く慣れ親しんだ感覚を綾子は覚える。
「わっ、ちょっと、あぶな……っ!?」
 猫を踏みつぶさないよう、吸い付かれた脚を思わず持ち上げた綾子は、猫の続く動きに瞠目した。
 爪先から足首まで、まるで蛇が獲物を飲み込むように猫の口が這い上がって来たからだ。
「え、ちょっ、うそ、なにこれっ」
 慌てて綾子が脚を振って猫を引きはがそうとするが、猫は身体をぐにゃりと伸ばしながら脚を這い上がってくる。ぴちぴちとラバーが張り詰めるような感触は、まるでラバースーツを履いているかのような感覚だった。
 しかし、綾子にしてみれば猫の身体が這い上がってくるのは、捕食されているような感覚に他ならない。食べられる恐怖というものを、綾子は感じていた。
「や、やめなさいよっ。離れて!」
 猫の口に指をかけ、無理矢理引きはがそうとするものの、強力に張り付いてくるラバーは綾子の抵抗虚しく徐々に浸食を続けていく。
 指が巻き込まれそうになって慌てて手を引こうとすると、そこだけは妙にするりと抵抗なく抜け出せた。
 だが、脚はすでに太股までラバーに覆われ、健康的な脚線美が強調されている。
 逃げようにも、脚に這い上がられている状態ではどうしようもならない。人を呼ぼうと電話口まで行こうとしても、脚の裏の部分が床に強力に張り付いてしまい、動くこともできなかった。
 やがてラバー猫は綾子の脚の付け根まで到達する。
「や、やめてっ! ここはダメっ!」
 綾子は自分の身体の中にまで入られることを防ぐため、秘部と肛門を両手を使って覆う。だがそれは無駄な抵抗だった。
 覆ったはずの掌の内側に滑り込むように、ラバー猫が綾子の身体を覆っていく。幸い、ラバーは綾子の体内までは入ろうとしなかったが、秘部と肛門の上をラバーが這いずっていく異様な感覚が綾子には感じられた。
「~~~ッ」
 ラバースーツを着る時にもあり得ない、おぞましい感覚に綾子は声なき悲鳴をあげる。
 ラバー猫の方はそんなことには一切構わず、瞬く間に彼女のもう片方の脚もラバーで覆ってしまった。
 そうなると、まるでラバー猫に身体を飲み込まれているような、端から見るとそんな奇妙な状態に綾子はなっていた。
 お尻までが飲み込まれ、まるで大きな口をあけたラバー猫に腰から下が飲み込まれてしまったかのようだ。
 ラバー猫の無機質な作り物の目が、綾子には恐ろしく思えた。
「ひっ……」
 息を呑む綾子をあざ笑うかのように、ラバー猫の浸食は続く。
 腰を超え、お腹や背中までもがラバーに覆われていっていた。なんとか抵抗しようと再度引き剥がしを試みたが、結果は変わらない。
「あっ、ああっ」
 這い上がってくるラバーに潰され、彼女の形の良い乳房が無残に潰れる。ローラーで挽き潰されたような痛みを感じた綾子だったが、それが過ぎると、ラバーはまるで乳袋のような形に変化し、彼女の乳房を潰さずに程よい丸みを帯びた形で落ち着いた。ゴムボールのような、普通では中々ならない綺麗な形だった。
 その状態ならば、さぞかしさわり心地がいいことだろう。
 だがそのことを綾子が理解するには、彼女にとって状況は切迫していた。
 胸を通りすぎたラバー猫の浸食は、彼女の両腕にも及んでいたからだ。
「く、くぅう……っ」
 なんとか抵抗しようともがいていた綾子だが、ラバーの浸食は残酷なまでに淡々と進められる。まるで猫の皮を着せられているかのように、彼女の両腕は丸みを帯びて肉球の伴った形へと変えられていた。
 それはすでにラバーが通過した下半身も同様で、まるで猫が二足歩行をしているかのような不格好な姿に変えられていた。
 猫の姿に近づきはしたものの、臀部や乳房など、よりにもよって一番女性らしさが出る部分はそのままの形が活かされており、普通の猫よりも卑猥な形状と言えるだろう。
(い、いっそそこも全部猫みたいになってくれたらいいのに……! こんなの、恥ずかしすぎる……!)
 とはいえ、全体的な形としては猫に近付いたため、二足歩行するのが難しくなった綾子は両手を――両前足というべきかもしれない――床に着けて四つん這いになってしまう。
 首までラバー猫が覆い、最後の一押しのように猫の頭部が綾子の頭に覆い被さるように髪を巻き込みながら飲み込んでしまった。
「う、うぅ……っ!」
 綾子は全身をラバー猫に飲み込まれてしまい、声も満足に上げられなくなる。
 完全に飲み込まれてしまった形だが、それでラバー猫の動きが終わったわけではなかった。綾子はその全身を震わせ、そのことを自覚する。
(こ、これって……!? まさか……!)
 全身ぴったり覆ったラバーの締め付けがさらに強くなったかと思うと、まるで全身を絞り出そうとしているかのような強さに変わった。
 その圧縮される感触は、彼女にとって慣れ親しんだものと言える。
(ああああ! あっ、圧縮されてる……っ!!)
 ラバー猫の形に身体が圧縮されているのを、綾子は感じていた。自分の視点が低くなり、周りのものが巨大化していくのがラバー猫の目を通して見えていた。
 ほどなくして、綾子は最初に彼女の足下に擦り寄ってきた猫サイズに縮んでいた。
「ウ、ウゥウウウ……ッ」
 動こうとすると、ギシギシと全身が軋んでラバーの感触が走る。その衝撃は凄まじく、綾子は目の前に星が飛ぶような衝撃を感じていた。
 ドアが開く音がして、研究所の奥から伊澄が現れたのはそのときだった。
「綾子? ……ああ、どうやら新型はちゃんと作動したみたいね」
 伊澄はいつものラバースーツを着ており、こともなげに綾子に近付いたかと思うと、ぬぐるみサイズのラバー猫と化した綾子を持ち上げた。
(い、伊澄……っ! どういうことなのっ)
「こほん……とある筋から入手したアイデアを私なりに圧縮ラバースーツに活かしてみました。名付けて『圧縮形態・ぬいぐるみ』!」
 圧縮ラバースーツの欠点のひとつをある意味解消することが出来るのだと伊澄は言う。
「ほら、平面化ラバースーツは身体への影響を考えて、幼児には使えないってことになってますよね。だから、いまは幼児を連れて電車に乗る場合、圧縮されるのは保護者だけで、幼児だけを通常の座席に載せないといけないでしょう?」
(……もしかして、ぬいぐるみ型に圧縮させて……子供に抱かせる気!?)
「この形状なら、子供は喜んで抱えるでしょうし、ある程度動けるので遊ぶことも可能! なにより保護者は子供から目を離さずに済むので安心安全というわけです!」
(とんでもないことを考えつくわね……あんたは……)
 綾子は内心、溜息を吐くしかなかった。
 いまは圧縮ラバースーツが浸透しているからまだ受け入れられる余地はあるが、一昔前ならばあまりに倒錯的すぎる行為だ。
 伊澄は楽しげにラバー猫となった綾子を抱きかかえ、撫でさする。
「いやぁ、それにしても可愛いわぁ……ぬいぐるみ好きの綾子の気持ちがちょっとわかるかも」
(あのねぇ……っていうか、ぬいぐるみ型というにしては、これ身体のラインがイヤラシすぎない?)
 綾子が抗議を込めた目で睨むと、付き合いの長い伊澄はその内容を的確に悟った。
「ふふふ……もちろん、実際はもっとぬいぐるみの形に近付けるわよ? 今回は特別。だってこの方が私たちは楽しめるでしょう?」
 伊澄が悪い笑みを浮かべるのを見て、綾子は嫌な予感を覚える。
 その予感は、伊澄が強調された乳房を弄りだしたことで的中した。
(ひゃっ、い、伊澄っ! やめてっ!)
「平面に圧縮した状態での快感も中々だけど……こうして元々の形に近いと、小さく圧縮されている分、快感も純粋に強くなってるんじゃないかしら?」
 その伊澄の指摘は的確だった。小さくなっているはずなのに、綾子は何倍にも大きくなった乳房を揉まれているような快感を覚えていたのである。
 猫の手足となった綾子の四肢が、迸る快感に震え、ビクビクッと痙攣する。
「今日はファンシーショップを見に行こうって話だったもんね。だから、このまま行こっか綾子」
(ひゃぅっ、あっ、ああっ、きゃぅっ!)
「ぬいぐるみコーナーに並べてたら買われちゃったりして……なんてね」
 ラバー猫になった綾子を抱きかかえて弄りながら、伊澄はラバースーツの上にコートを羽織る。
 そして、抱きかかえたラバー猫の綾子と一緒に、ファンシーショップに向かうのだった。

 圧縮ラバースーツを生み出した彼女たちの休日は、これから始まるのである。


~ラバー猫型圧縮形態 おわり~

10月に書きすすめようとしている作品たち(※あくまで備忘録です)

星霜雪形で途中になっている作品の一覧です。

・ 機械化メイドとサイボーグ奥様の出産プレイ(胎児に意識を移されたソラミ。ソラミの身体にミルキーは)
・状態変化なふたり続編(圧縮ラバースーツの新しい機能を作ったと伊澄に呼び出された綾子。そんな綾子に……)
[ 2018/10/01 20:00 ] 連絡 | TB(-) | CM(0)

機械化メイドとサイボーグ奥様の出産プレイ 6

 唐突に何も見えなくなっても、私はあまり慌てなかった。
 ミルキーと一緒に暮らして彼女の希望するプレイに付き合っていると、これくらいのことは結構普通にあるからだ。
(それにこの感じ……たぶんあれよね)
 以前、私に全身が機械になる感覚を味わって欲しいということで、特殊なバイザーを用いてミルキーの身体を動かしてみたことがある。
 意識そのものをミルキーに移動するような形で、自分の身体はすぐそこにあるのに、ミルキーになってしまったような感じがしたことが印象深かった。
 そのときはミルキーは私の第二の人格みたいに存在して、記憶や意思が混在して心地よかった。もっとも、精神的には同一化しそうになってあぶなかったらしいけど。
 その時、ミルキーは私と感覚や視覚を共有していたけど、そうしない場合は意識だけが暗闇に取り残された形になるのだと言っていた。
 ひょっとすると、いまの私はその状態にあるのかもしれない。
(けれど……なんだか身体の感覚は朧気ながらもあるのよね……)
 全身がじんわりと暖かいのを感じている。ふわふわとした浮遊感は、まるでぬるま湯に浮かんでいるようだった。ここにずっといたくなるような、安心感が――そこまで考えて私はある考えに至る。
(もしかして……!?)
『ソラミ奥様……いえ、いまはソラミと呼びましょうか』
 ミルキーの声、じゃないけどミルキーの言葉が聞こえてきた。それは耳に馴染んでいるようでいて、あまり馴染みのない声だった。
 声をあげようとしたけど、うまく身体が動かない。動こうとした意思も読み取られているのか、ミルキーがくすりと笑った。
『声は出せないわよ、ソラミ。いま、あなたがどうなっているか見せてあげるから』
 そう言われるのとほぼ同時、視界が急に明るく開けた。
 見えてきた景色は、いままで私が視ていた診察台の上からの景色ではなく、その診察台がある部屋を俯瞰して視る監視カメラからの視点だった。
 診察台の上には私の身体が寝ていて、すぐ傍にナース姿のミルキーが立っている。
 私の身体が動いて、私の視界を提供しているカメラの方を向いた。
 そして、私の身体が口を開いた。
『見えてるでしょ? 見えてるなら、脚を動かして見て』
 聞き慣れないけど聞き慣れた声は、私自身の声だったのだ。どうやってかしらないけど、いま私の身体はミルキーに乗っ取られているみたいだった。
 私は言われるまま、力を込めてもがく。他の部分はともかく、脚だけはしっかり動いた。私が動くと、私の身体を使っているミルキーが、いつの間にか接続し直した手で、私のお腹を愛おしげに撫でている。
『ふふ……元気に蹴飛ばしちゃって。やっぱり妊娠といえば胎動よね』
 そのミルキーの動きで確信した。私のお腹の中に入れた胎児を模した人形。いま私はあの人形に意識が移された状態にある。
 そうして空いた私の身体を、ミルキーが使っているのだ。
『察したみたいね。そう。ソラミはいまお腹の中の胎児になっているの。貴女には出産される側になってもらうわ。私なら出産で受ける衝撃を自由にカット出来て安全だしね。助産に関してはお産プログラムを入れた私の身体にやってもらうことになってるわ』
 そう言ってミルキーが、傍で棒立ちになっていたミルキーの身体に視線を向けると、ミルキーの身体は若干ぎこちない動きで、静かに頭を下げた。
「ナンナリトご命令クダサイ」
 いまのミルキーは身体も機械ならそれを動かしてるのも機械なのだから当然なのだけど、非常に機械らしい動きをしていた。
 つまりいまの状態は、私の意識は私の身体の中の胎児に宿り産み落とされ、ミルキーの意識が私の身体に入って胎児を出産しようとしていて、ミルキーの身体はプログラムが動かして私の身体のお産を手伝う、ということになる。
(なんというか……私がいうのもなんだけど、倒錯してるわよねぇ……)
 そんなミルキーに付き合ってしまうのだから、本当に私が言えた話ではないのだけど。

つづく
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プロフィール

夜空さくら

Author:夜空さくら

はじめに
当ブログは状態変化系の18禁小説ブログです。関連の同人誌・版権物のレビュー、個人的な語りなども書きます。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

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